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『んー、』
「唸り声すごいよ」
『だってさあ』
「まあ、確かにスポーツ用品はデザインもなにもって感じだけどさ」
『そこまでは思ってないよ』
もうすっかり元気になった実紅。
いつもの毒舌も相変わらずの通常運転。
さすがです、なんて思いながらタイピングをしていた手を止めた。
ぐーっと伸びをして思わず漏れた欠伸に、実紅以外の人にも笑われちゃって恥ずかしくなる。
縮こまっていれば、背後に感じた甘い香水の香り。
そこにいたのは社内でトップの美人らしい美代先輩。
私は実紅の方が可愛いと思うけど、どうでもいいからなんとも思わない。
大人な香水の匂いに、少しだけ顔を背けたくなった。
『お疲れさまです、美代先輩』
「お疲れさま、黒瀬ちゃん。スポーツ?大変そうね」
『はい。まだ未挑戦の部類で…』
「でもよくできてるよ?ほら、こことか。
私も今スポーツだし、遠慮なく相談してね」
『ありがとうございます!助かります』
私のデザインをまじまじと見てそう褒めてくれたのは思えば美代先輩だけかもしれない。
ちょっと線引いてたけど、優しい人なのかな。
それに、私と同じスポーツやってるって言ってた。
相談もしていいって言ってたし…
なんか、嬉しいな。
「うーわ」
『わっ、びっくりした、なに?』
「あの笑顔、絶対Aのこと蹴落とす気だよ。
目が笑ってないもん」
『そんなこと言わないの。
大丈夫でしょ。優しい人だったし』
「話したことある?」
『ううん。今日が初めて』
「ほらやっぱり!
Aの出世を嗅ぎつけて来たんだよ!」
『ちょ、声でかい!そんなわけないから』
でも確かに、あの笑顔が本物かって言われると…
社交辞令のような気もするな。
言葉もかなあ。
仲良くなれるって思ったんだけどな。
「気をつけてよ、本当に」
『大丈夫だって』
コソコソと言ってくる実紅を放って美代先輩が歩いて行った方を見る。
随分遠くなのに、パチッと合った視線。
さっきの実紅の言葉が頭をよぎって向けられた綺麗な笑顔に少し慌てて頭を下げた。
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