常夏《赤》 (ページ28)

今日:1 hit、昨日:4 hit、合計:111,780 hit

#28 ページ28

.

『ちゃんと食べなよ』

「うん、分かってる」

『しっかり寝なきゃまたそうなるから。
寝不足は大敵』

「心配しすぎ。大丈夫だって」

『無理しないでね』

「うん。ありがとう。近い内に埋め合わせさせてね。
気分転換したいし、楽しみがあれば頑張れるからさ」

『…ふふ、うん、私も楽しみにしてる』

じゃあ、また明日。

そう交わして、実紅と別れる。

日付が変わっていたのに気づいたのは、沈黙がつらくなって携帯を開いたときだった。

「黒瀬」

『はい？』

「…や、なんでもないわ」

『部長、体調悪いですか？なんか今日変ですよ』

「大丈夫やで」

『そう、ですか。ならいいんですけど』

私の気の所為かな。
でもやっぱり、横顔が悲しそうに見える。

再び訪れた沈黙を裂くように携帯の通知音が鳴った。

今の、私の携帯だ。

『…あ、』

″寝てたらごめん。大丈夫？″

たった二言。
それでも、送信者を見たらそんなの気にならない。

こんな時間まで起きてたんだ。

「黒瀬、どこら辺？」

『あ、すみません。
えーっと、ここ直進してすぐの十字路を右です』

「ん。分かった」

″起きてますよ。ありがとうございます″

なんと可愛げもない。やっぱり私って地味だなあ。

送ってすぐついた既読の文字を見て、少し、ドキッとする。

まだ見てくれてる。
返信返ってくるまで見てるとか、優しすぎるよ。

ああ、彼が好きって認めるだけで、こんなに感じ方が違うんだ。

「嬉しいことでもあった？」

『へ？』

「顔に出すぎ。
言われた通りのところ着いたで。ここ？」

『あ、ここです』

「そっか。ほなまたあとで。戸締りとか気いつけや」

『はい。ありがとうございました』

そんなに顔に出てたかな。

恥ずかしくなって、気を紛らわすように、去っていく部長の車に頭を下げた。

見送った後で少し熱くなった頬に手を添える。

思いの外、口角が上がっていて。
これはバレるか、なんて部長の言葉に納得した。

『…ねむ、』

なんか、疲れたな。
朝起きたらシャワー浴びればいっか。

今にも眠りそうな頭を少しだけ起こして、アラームをセットしておく。

コートもバッグも携帯も、ベッドのすぐ横に置いて、そのまま倒れ込む。

ふんわりとした毛布の感触に、意識はすぐに落ちた。

″よかった。頼ってくれて嬉しかったです″

重岡さんからのメッセージには、気づかないまま。