常夏《赤》 (ページ27)

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「すみません、わざわざ」

「ええねん。俺の方こそ気づけんくてごめんな？」

「私が勝手に限度超えただけなので。
部長が気にすることないですよ」

「ならせめて送らせてや。
こんな時間やし、家帰りたいやろうし」

「…じゃあ、お言葉に甘えて」

黒瀬も。はよ行くで。

当たり前のようにかけられた声に、少し、いやかなりびっくりしてる。

だって私は倒れてないし、病人でもない。

送ってもらう理由なんてこれっぽっちもないから。

『え、いや、大丈夫ですよ。
バスとかその辺の交通機関使って帰りますから』

「ええから、送らせて」

有無を言わせない部長の瞳に負けて「部長命令」だと言われる前に頷いた。

『ありがとうございます』

「お礼言う暇があったらはよ車行こな」

諭すような口調に少し不貞腐れながら先に行く実紅を追いかける。

外はもう暗い。

キラキラと瞬く星。
誰かと同じ空を見ていることに、嬉しさを覚えた。

『綺麗…』

思わず立ち止まる。

不意に、名前を呼ばれた気がして。
届くわけもない空に、手を伸ばした。

「なあ」

『あ、部長！びっくりした…
背後からいきなり声かけないでくださいよ』

「…月」

『え？月がどうかしました？』

「綺麗やな」

『そうですね、今日は満月です』

視線をまた空へと戻す。

雲が一つもない、綺麗な夜空。
おかげで浮かんでいる満月も映える。

写真に撮りたいところだけど、生憎、星も月も、肉眼でしか美しく見れない。

携帯のカメラじゃ、今の景色には及ばない。

「…行こか」

『あ、はい』

先で待っている実紅と部長の距離が縮まっていく。

難しい顔をした実紅に首を傾げながらも、部長の後を追う。

『…なんかしたかな、私』

少し見上げる形で見た部長の横顔は、視線を落としているせいか、悲しそうに見えた。

やっぱり、今日の部長はどことなく変。