常夏《赤》 (ページ25)

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#25 ページ25

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「どうしたん、元気ない」

『ご、めんなさい、お仕事中でしたか、』

「いーえ。もう終わりました。
なんかあったん？俺でよければ聞きますよ」

苦しくて苦しくて、仕方ない。
目の前に横たわる実紅にまた泣きそうになる。

空白の時間を埋めるためなのか、気づけば発信履歴の一番上にあった名前に触れていた。

『親友が、倒れたんです…
私、そこまで体調悪いなんて、思ってなくて』

『気づいてたのに、何もしてあげられない自分が、なんだか情けなくなってしまって、っ、』

まだ残っている仕事を片付けると言って何も言わずに私を一人にしてくれた部長。

今は、その心遣いを申し訳なくなんて思わない。

おかげで気兼ねなく心の内を言える。

重岡さんは、優しすぎる。

泣きながら何かを言われるって、私だったらきっと、電話越しに苦笑いするのに。

「…よう頑張ったやん」

小さめの声でそう言う重岡さんは、優しすぎるんだ。

「なんで俺にかけてくれたん？」

『履歴、一番上で…』

「…そっか。でもなんか嬉しいわ」

『え、』

「電話やとしても、弱さを曝け出せる相手になれてるってことやん？」

驚くには充分すぎるその言葉に、ぽろぽろとこぼれた涙が少しずつ止まっていく。

でもそのあと、なんだか少し笑顔になれるの。

魔法みたい。

重岡さんの言葉一つで、部長の言葉を素直に受け入れられそう。

責めなくていいんだよ、って。

あの言葉、本当はすごく嬉しかったから。

『ふふっ、なんだか不思議です。
重岡さんと話してると元気になれる』

ほんの少し飛び出そうになった涙の粒を指で拭って、そんな彼にお礼を言う。

そして彼も、そんな私に照れくさそうに返すんだ。

「俺でええなら、いつでも頼ってな」

甘すぎる。

でも疲れた身体には、丁度いい。

『…はいっ』

そう笑った瞬間、視界の端の方がもぞもぞと揺らぐ。

おやすみなさい、と一言添えて電話を切ると、顔色も大分良くなった実紅が起きていた。

『無理しすぎ』

「へへっ、ごめんね」

『よかった、起きてくれて』

「こんな時間まで隣にいたの？
本当お人好し。…わざわざありがとね」

『もう、心配したんだよ』

また潤んできた私の目を見て微笑んだ実紅に、私も、滲む視界を堪えて目を細めて見せた。