常夏《赤》 (ページ22)

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#22 ページ22

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『ありがとうございました。
すみません、送ってもらって』

「元は俺が自分で送る言うたんやし、気にせんといてください」

いつでも会えるように、なんて言われて、重岡さんと交換したライン。

新しく追加された「しげ」の文字。
携帯の画面を撫でては思わず頬が緩む。

「ほな、またお店で」

『はい。…また』

私より歳上だと発覚したのもあって、ときどき敬語が交じるけど、彼は私にタメ口を使うと言ってくれた。

それが、なんだか嬉しくて。

小さく振り返した右手を彼の後ろ姿を見ながら左手でぎゅっと握っていた。

『…』

頬に当たる夜風が気持ちいい。

こんなにも嬉しくなったことは、今までで一回もないかもしれない。

それくらい、嬉しくて、幸せ。

『…好き、なのかな』

抑えられないと分かってしまったら、もう抑える努力さえも諦めてしまいそう。

でも仕方ない。こればっかりは。

『あー、もう』

薄々は、気づいてたけど。

『好きに、なっちゃったじゃん』

もう片想いのレールに乗ってしまった。
今さら外れることなんて、できやしない。

できれば気づきたくなかったのにな。

重岡さんが、変なことばっかりするから。

意識してしまった。

『っわ、びっくりした、』

暫く玄関前で立ち尽くしていれば、静かな夜にあまり似つかわしくない大きな音が鳴る。

着信音。

表示された名前は、「重岡さん」だ。

『もしもし、』

「あ、寝とった？」

『起きてますよ。なんならまだ家の外にいます』

「外！？なにしてるん、風邪ひくで？」

『ふふっ、今入りますよ』

電話越しでも分かる。

重岡さんは優しいから。
きっと今、私を心配して慌ててる。

『家、着きました？』

「もうすぐ着きます。
…やなくて、もうすぐ着くで」

すぐ気づいてくれるところとか、優しいの。

でもきっと気づいてないんだろうな。

別れ際、また敬語になってたこと。

『よかった…
逆方向なんじゃないかって思ってたんです』

「逆？あー、俺はそんなかっこつけられへんなあ」

格好なんてつけなくていい。

今のままで充分…

『かっこいいのに…』

「ん？なに？」

『あ、いえ、なにも。
今日はありがとうございました。おやすみなさい』

「そう？ん、こちらこそ。おやすみ」

タメ口になってまた少し気が抜けた重岡さん。

ドキドキしてるなんて、口が裂けても言えない。