常夏《赤》 (ページ16)

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#16 ページ16

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「もしもし」

『あ、重岡さん、ですか』

「ふはっ、かけてきたのはAさんですよ。
俺以外が出たらどうするんですか」

『へへっ、それもそうですね。
ごめんなさい、確認せずにはいられなくて』

「久しぶりですね。
嬉しいことでもありました？」

『え、分かります？』

「いつもより声が弾んでるんで」

嬉しいな。
私の声の違いに気づいてくれるんだ。

あれから徐々に、連絡も取り合うようになって。

そんな彼のことを諦めようとすればするほど、気づかないフリをすればするほど。

気持ちが隠しきれなくなってきていた。

気づきたくない。傷つきたくない。

重岡さんの気持ちがこっちに向かないのは、本当に、分かってるんだ。

でもさ…

『初めて、大きな仕事を任されたんです』

「え、ほんまに？めっちゃ嬉しいやないですか！
…って、俺が喜ぶんもなんか変ですね」

自分のことのように喜ばれたら、少しの可能性でも、期待しちゃうよ。

『変、ですか？私は嬉しいですけど』

今時の二十三歳って、もう少し可愛いのかな。

こんな言い方しかできない私はある意味、大人たちの仲間に入れてるのかもしれない。

「…ほんなら、よかったです」

想像しちゃう。

今なにしてるのかな。
今日はお仕事行ってきたのかな。
誰かに声をかけられたりしたのかな。

…誰か、想い人はいるのかな。

『重岡さん』

「ん？はい」

ん？って声だけで胸が変な感じになるのは、なんで？

好きじゃない。恋なんてしなくていい。
…違う、恋なんてできない。

ただ自分が傷つきたくないだけ。

なのに、私の心は止まってくれない。

『…呼んでみただけです』

なんで、重岡さんなの。

もっと最低な人だったら、諦めがついたかもしれないのに。

「A」

ドキッと心臓が変な音を立てる。

呼び捨てで呼ばれた自分の名前。
誰に呼ばれたって、こんな音鳴ったことない。

『は、い』

声が掠れる。

やだ、やめて。これ以上心が動く前に止めたいのに。

振り回すようなこと、しないでよ。

「って、呼んでもいいですか？」

そう問いかけて、電話越しに笑ってる。

心臓の音が大きすぎて、返事をしたはずの自分の声が聞こえない。

『寝ます、ね。おやすみなさい』

「あ、すみません、遅くまで。
仕事頑張ってな。おやすみなさい」

ねえ、重岡さん。

そんな甘い声で私の名前を呼ばないで。