第一章 ページ1
.
「あーもう！終わんない！」
『もう少し静かにして。
ここ出てからだったら別にいいから』
「A〜…」
仕事と社会人。
つらすぎる現実が二つも重なった、初めての年。
新人として入社した私と実紅は、早くも雑用係に任命されたも同然の扱いで。
溜まるストレスに叫びをあげる実紅の気持ちも分からないわけじゃない。
だってつらいもん。今なら軽く辞められる。
『まあ確かに、資料作成に関しては私たちの仕事ですってわけじゃないしね…』
「もうさ、デザイン会社に就職した意味ある？」
『ないかもね』
「ですよね…」
ぶつぶつと文句を言いながらも、隣から聞こえてくるタイピングの音は途絶えない。
仕事熱心なところ、いつか引き抜かれそうだけどな。
「決めた！今日は飲む！
A、付き合ってくれる？」
『いいよ。でも潰れたら許さない』
「奢るからあ…」
『程々なら許す』
「もうA優しいー！」
『待って、そんなわけないけどもう酔ってる？』
馬鹿な話をして笑える友達は、私には数少ない。
そんな中で、その名の通り親しい友達の実紅とは長い付き合いが続いている。
同じ会社の同期っていう肩書きも、安心できて。
「終わっ、たー！！」
『お疲れ』
「え、A終わってたの？」
『ん？今終わった』
「…Aってさ、男なら絶対モテると思う」
『モテない女で悪かったね』
「いや、モテてるよ？
告らないような意気地無しにばっかりだけど」
『悪い奴にしか運ないからなあ』
思わずこぼれた苦笑い。
まだ手放せないコートを椅子からとって、パソコンをそっと閉じた。
ジメジメとした暑い夏。
新社会人として溶け込む街は、煌びやかでもなければくすんで見えるわけでもない。
でも、期待していた「大人」には程遠い。
「昨日新しいお店見つけたの！」
『へえ、実紅はセンスいいもんね』
「…やっぱAさ、」
『願ったところで転生は随分先の話だよ？』
しゅん、と身を縮める実紅も今はフリー。
ついこの前、彼氏に散々な振られ方をされたらしく、もう当分恋愛はしないと断言していた。
ころっと落ちちゃうのが実紅なんだけどね。
予想。
絶対二週間以内にいい人見つけたって報告しに来る。
「ここ！」
『…私には無縁そうなお店だ』
「なんでよ。入ろ？」
『え？あ、うん。入るよ』
拾われた独り言が、少し恥ずかしかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 363人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ジャニーズWEST」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
