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「A、終わった?」
『ん?』
「その様子だと終わってるね。
はい早く準備して!」
『なに。まさか本当に行く気?』
「え、行かないの?」
『え、行くの?』
まとめ終わった書類を付箋で分けていると、なにやら聞こえてくるワクワクした声。
なんだか少し張り切った様子の実紅。
勘ぐってはいたけど、まさか本当に行くとは…
実紅さん、まじですか。今からですか。
ちょっとお洒落してきちゃってる私も私だよ…
「行きたくない?」
『いや、そういうわけじゃないけど…』
「行こうよ。私もあの人に会いたいしさ、ね?」
『じゃあ…行こうかな』
「やったー!」
スカートをひらひらと揺らして喜ぶ実紅に、やっぱり自信がなくなってくる。
絶対に私宛じゃないよね、あれ。
渡そうとして突き返された例の紙は、また、コートのポケットの中に逆戻りしている。
名前も知らないのあの人の笑顔が浮かんで、払拭するように慌てて頭を振った。
「ふっふっふ、恋はすぐそこだね?」
『もう、違うってば』
ニヤニヤと笑う実紅を横目に、頭の中はもうあの人で埋め尽くされていく。
おかしいな。
会いたいだなんて思っちゃってる。
お店までの道のりが、なんだか短く感じた。
「いらっしゃいませ」
「二人でお願いします!」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
ああ、目がハートになってるよ…
実紅ー、帰ってきてー。
「やっぱりかっこいい…」
『もう完全に落ちてるね』
「だって偏見なしにかっこよくない?あの人。
まあ、Aにはもう王子がいるみたいだけど!」
『王子じゃないから。
でも確かに綺麗な顔してるね、あの店員さん』
「やっぱ?惚れるのも無理ないよね〜」
『それとこれとはまた別問題』
他愛もない話をしながらも、私の視線はお店の奥へといってしまう。
あの人、厨房なのかな。
それとも今日はいないってだけ?
ああ、だめだ。気になってもやもやする。
「連絡してみれば?」
『っわ、びっくりした…
それ身乗り出してまで言うこと?』
「いいじゃん、Aの恋を応援したいの!」
『応援するような恋じゃないし。
…ていうか恋でもないから!別に!』
「ふーん?」
椅子の背もたれに掛かるコート。
でもやっぱり気になってポケットの中からレシートを取り出す。
それを見た実紅はニヤニヤ顔だけど、もうなんか、別にどうでもよくなってきた。
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