「好き」をあなたに。

『緑』背伸びとゴンドラ。 ページ12

Main __ K.Tomohiro







『…あ、』





背の高い彼。

友達にはチビって言われてるみたいだけど、やっぱり世間一般的には高い方だと思う。


だって、ほら。





「お兄さん、私と遊ばない？」





寄ってくる女の人が、自然と上目遣いになってる。





「すみません、彼女待ってるので」

「なんだ、彼女持ちか」





案外すっと離れて行った綺麗な女の人。


私を、連れじゃなくて「彼女」って言ってくれたのがすごく嬉しくて。

不安になるより先に、緩む頬を抑えていた。





『待たせてごめんね』

「大丈夫。俺も今来たとこ」





優しい嘘もバレバレ。

だけど指摘すると彼のプライドを傷つけそうだから、素直にありがとうと言っておく。


付き合って初めてのデート。

声に出すのも恥ずかしいそのワードは、私のこれまでにはなかったもの。


これ以上ないほど人を好きになったのは、初めてで。





「行こか」





さらっと繋いでくれる手さえ、絡めたことのない私はドキドキせざるを得ない。

頑張って履いてきたヒールも、身長の高い彼氏には、ちょっと及ばず。



でも時々見えるその横顔が、どうも私には嬉しそうな笑顔にしか見えなくて。


だから、心配する必要なんてないんだよって。
真っ直ぐに彼を愛し続けていいんだよって。

そう言われてるような気がして、不安にはならない。





『観覧車乗りたいな』

「A高いところ大丈夫やっけ？」

『…』

「あかんやん」

『でも、智くんと乗りたい』

「…分かった。ええよ、乗ろ」





普通は最後の最後に乗るんだろうけど、どうしても、一番に思い出にしたくて。

それを了承してくれる彼の顔も、心做しか綻んでる。





「いってらっしゃ〜い」





ニコニコと微笑む店員さんに見送られながら、ゆらりゆらりと下がっていく景色を見つめる。


無言でも、苦しくない。むしろ居心地が良くて。

この人となら、なんて未来まで考えちゃったり。





「…今日、さ」

『ん？』

「ヒールとか、その服とか。
俺のためにお洒落してきてくれたんよな」

『…へへ、バレてたか。普段はもっと違う感じだし、なんていうか…背伸びしすぎ、だよね』

「いや、」





もうすぐ、頂上。

景色を見るはずが、彼から目が離せない。





「めっちゃ可愛ええ」





照れたようにそう言った彼が愛おしくなった。

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