プロ野球と短いお話

遠距離ピースサイン G6 ページ18

(Aさんは旅行カメラマンの設定です)

＊

勝てないし。打てないし。なんで、なんで。努力してるのに。

そんな思いが頭をぐるぐるぐるぐる。打席でも考えすぎてやっぱり打てない。

気づけば、チームは13も負けていた。

笑いも出やしない。野次られて、心が折れそうになる。だけど、そんな俺やチームに声援を送ってくれるファンがいる。
そして、そんな俺を支え続けてくれたあいつがおった。今はおらんけど。
でも、もし今あいつがおったら、あいつ言うやろな。

『なに下向いてるの？』

ほんまに呑気なやつや、どうせどっかで写真撮っとんやろ。

『いい写真なんてね、取れることの方が珍しいんだよ？』

いつか言いよった。
そりゃそうやろうけど、プロがそんな事言うか？
俺もプロの看板引っさげてやっとるからには、それなりのプライドもあるけんそんな事絶対言いたくない。
せやけど、あいつはちゃうらしい。

『フィルター通して見たらさいっこーの構図なのに撮ってみたら酷いとかざらだからね。そんなんでめげてたらやってけないよ。』
『だからそんな時も気にせずに、もっかいもっかいってやんないとね。』
『だって私の写真を待ってくれてる人がいるからさ!!』

満面の笑みで言ってのけたあいつに、憧れたし、惚れた。
今やって隣に居らんでも俺の支えになってくれとる。そんな存在中々居らんやろ？ほんまに俺は最高の彼女を手に入れたと思う。

＊

車から降りて家に入る時に郵便箱を覗くと、1枚の封筒が入っていた。

差し出し場所は、タンザニア...タンザニアぁ!?

中には便箋と写真が1枚入っていた。

『勇人へ。

私は今タンザニアにいます。(今って言ってもこの手紙を書いてる時なのできみの所に届く頃には多分居ない)

すごい綺麗な光景を見たので送っちゃいました。他のは帰るまで我慢してね。
恐らく野球漬けで疲れてるだろうから大自然に癒されてください。

A』

ほんま、あいつには敵わん。このタイミングでこんな写真送ってくるとか天才かよ。
送られてきた写真はサバンナであいつがピースしとる写真。自分が撮った写真でもないのに送ってくるか？

「勝と...」

13も負ければ十分やろ。

こんな笑顔で笑われたら答えん訳にはいかん。シーズン終わりには帰ってくるはずやから、そんときににでも言ってやろう。
お前の写真のおかげで勝てたんや、って。

どうせお前はキョトンとした後に『やろ！』って笑顔で言うんや。

んで、俺はその笑顔が見たいだけなんや。

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