プロ野球と短いお話

仲直り Bs13 ページ8

茉乃さん request

「登場曲選挙？」

彼が口にした言葉は聞き返してしまうほど聞き慣れない言葉だった。

「そそ。打席に入る時とかに流してもらう曲なんやけど。それをTwitterで今どれが良いか応募してもらってんの。」

「ふーん」

ほら、と言って見せてくれたスマホの画面にはなるほど。泰輔の好きな曲が3つ並んでいる。

「虹とHORIZONと777かぁ」

「うん。俺じゃ決めきれへんかった。」

「私も無理かなぁ...」

だってどれもいい曲なんだもん。

「なぁ。Aやったらどの曲にする？」

「は？」

おいおいおい。人の話を聞いてたのか、この人は。

「いや、私も決めれないから。」

「だーよなー。」

ベットにぼすんと沈む泰輔。わぁ、すごい沈んだ。

「なぁ、真剣に考えてる？」

「へ？」

するとさっきまで沈んでたはずの泰輔の体が急に起き上がってこっちに向き直った。

「俺の登場曲やで？プロの打席に入る時に流れる曲やで？むっちゃ大事やん！なのに...俺の彼女は真面目に考えてんのかなぁって思って。」

「はぁ？」

少し怒りっぽい口調になったのがいけなかった。泰輔は私の頬をむにゅっと掴んだ。

「ぶふっ...」

「なによ！」

「いや...A、むっちゃブサイク……w」

その一言にカチンときた私は泰輔から布団を奪って、くるまった。

「あ、おい！A！」

「泰輔なんて知らないっ！どーせ私なんかより可愛い人はいーっぱいいますよーだ！」

「ちょ、なんで怒ってんの!?」

泰輔のバカバカバカ！私は自分が可愛いとか自惚れたことないけどそれでも好きな人に言われて凹まないほどできた人間じゃないから……

「ごめん…A……」

布団から顔だけ出すと、本当に申し訳なさそうな顔をした泰輔がいた。

「……そんな顔しないでよ、泰輔。」

「いや、だって、よく考えたら彼女に向かってブサイクって言うとか酷いじゃん。ごめんなぁ。」

「ううん...私もそんなんで怒ってごめん。」

ちょっぴり気まずい空気になる寝室。そこに泰輔のiPhoneがピコンッと鳴る音がした。

「あ、Twitter……虹だって...」

「本当だぁ。」

その投票した人はコメントを送ってくれたらしい。絶対虹がいいですよ、似合いますよ、って。

「うふふ。よかったねぇ」

「うん、よかった。」

スマホの画面を挟んで2人で笑い合った。それからどちらからともなくぎゅーっと抱きしめ合った。

私たちのある日の仲直り。

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