ver:太宰? ページ10
◇
「太宰も行ってこい」
「拒否しますよ、乱歩さん……そんなに云うなら、乱歩さんや与謝野女医が行けば如何ですか?」
「妾が行けないことを知ってのうのうと……起きなかった時により強い衝撃を与える為に行けないことくらい、知ってるだろ?」
乱歩、太宰、与謝野女医の三人で険悪なムードと共に会話が交わされる。太宰は頑として行くなどと云うことはなかった。
与謝野女医は行く行かないの二択ではなく、行けないの一択しかないのだ。理由は彼女の台詞より、察せられる。
しかし、乱歩は行かない。別に忙しいスケジュールの間を縫って行けないことも無いが__
「これは君たちの問題だ。僕が関わる道理はないよ」
その一言で片付けられるのだ。
腹立たしげに、太宰が嘲笑する。結局、皆Aを厄介者として扱うじゃないかと。乱歩は意にもとめず、太宰を鼻で笑う。
まだまだだね、と云わんばかりに。
乱歩は二つセットの駄菓子の片割れを、Aの傍に置く。墓前に供えるような仕草だが、あまりにも安らかなAの顔は納得を招く。
諦めたように太宰は錠剤を手に取る。そしてソファに寝そべり、軽く手を振った。
そして、それを口に含んだ。
◇
場所は変わり、Aの夢の中。一つの霞もない其処は現実となんら変わらない。
探偵社の下の喫茶で、Aと偽太宰がにこやかに喋る。手元の珈琲は湯気を絶やさず、Aは角砂糖を四つも五つも入れた。偽太宰から文句は出ない。
近くのティースプーンでくるくるとかき回す様子を偽太宰は満足げに眺めていた。
「Aちゃん、私と居るといつも悲しそうだよね」
「……そうかな?」
「ダウト」
平然を装った筈が、Aの肩がビクリと震えてしまった。偽太宰も太宰も、其処は変わらず勘が良いのだ。
「何時だったか私、太宰に嫌われていたの」
「へぇ」
偽太宰は目を細める。Aは間の悪さを誤魔化すように、ズズと珈琲を啜った。行儀が責められる場ではない。
「大丈夫、私は君を嫌わないよ」
「なんか、うん……ありがとう」
湿気た雰囲気を吹き飛ばすように、つとめて明るくAは云った。偽太宰は喜びを隠せぬように笑った。
◇
「おはよう〜」
「如何でしたか!?」
太宰の起床に、敦がすかさず問う。しかし、寝息を立てるAを見て結果は歴然だ。
実は太宰は飲んだふりをして外套のポケットに錠剤を隠したのだ。会っても居ないものの結果などあるわけが無い。
太宰は小さく笑った。
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ふうゆず - 泣いた (2019年5月4日 5時) (レス) id: 77992ccb5c (このIDを非表示/違反報告)
江羅古九 - 珍しいストーリーで面白かったです! (2019年3月27日 12時) (レス) id: 0bf8db909c (このIDを非表示/違反報告)
きの - 下のゆきさんという人とは別人です (2019年3月10日 4時) (レス) id: 6cf2837f77 (このIDを非表示/違反報告)
きの - 完結おめでとうございます オチですがなんだかいろんなルートがありますが個人的には谷崎さんとかがいいかなと思います 一番多いのは太宰さんルートみたいですがなんかいやだな 太宰さんはずっと夢主ちゃんと友達のままでいた方がいいと思います (2019年3月10日 4時) (レス) id: 6cf2837f77 (このIDを非表示/違反報告)
輝星奏 夢歌♪(プロフ) - 初めまして、完結おめでとうございます!大好きです!←(唐突な告白w)夢主に同調しすぎて最後は特に泣きっぱなしでした。心にずっと残る素敵な作品、ありがとうございました。私は太宰さんルート見てみたいです。これからも頑張って下さい! (2019年2月24日 21時) (レス) id: cb7767f193 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:レン | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/
作成日時:2019年2月3日 13時