うぃーうぃる。 ページ44
◇
錠剤が届けられた刹那、Aは国木田から荷物を掠めとる。中の錠剤を取り出し、そのまま口に入れた。不味い。良薬は口に苦しとは云うが、皆これを飲んだのかと感嘆する。
谷崎は驚いたように云う。
「Aさん、未だ絶対安静を……」
「にどねです」
__こんどは、ちゃんとおきますから。
Aはそう云って、太宰の包帯だらけの手に触れた。意識が吸い込まれたのがよく判ったが、既に夢の中だった。
五里霧中で、太宰に夢中なのかもしれない。
夢だけに。
◇
「なっ……!ここは危険だ、早く逃げ……!」
「うるさい!太宰が悪い!なんで犠牲になろうとするの!?有島おにーさんも太宰さんも絶対に君の幸せを願っているのに!?」
「……先生、まぁ兄さんは如何かな」
太宰は苦笑したが、Aが手を伸ばしたのを見て自分も手を伸ばす。その時、近くにあったブレスレットの尖った部分に接触し、太宰は手を切る。計画通りだとAは口角を上げた。
つまりは、衝撃。
太宰は驚いたように目を見開き、そして安心した口振りで云った。
「待ってるよ」と。
太宰は夢から醒めることが出来たようだ、少しの間目を逸らしていた間に消え去っていた。太宰は心配するだろうが、必ず起きると約束している。永眠ではなく、仮眠だ。
「太宰、出てきて」
沈黙が辺りを包み、Aは気まずさを少しだけ覚えたが、別に構わない。言葉を次ぐ。
「でなきゃ、君がくれたブレスレットの尖ったとこで私の頸を掻っ切るよ」
「それは辞めて……」
太宰はひょっこり現れた。夢の中の、だ。それは困るだろう、自分のあげたものであげた人が死んではざまあない。やはり、太宰は太宰だとAは思った。
「ありがとう」
「こちらこそ」
「君が居なきゃ、夢から醒めようとも思えなかった。本当にありがとう」
__人の優しさを、現実の楽しさを、一人の苦しみを、二人の幸せを、あらゆる愛すべきことを。
「教えてくれて、ありがとう」
「いえいえ」
Aと太宰は笑いあった。
そうしてAは太宰とお別れをした。光が上っていくのを眺めて、余韻を残しながらAはやはり泣いてしまう。
(ごめんじゃなくて、ありがとうって云っとくね)
そして、Aは浮遊したブレスレットの輪っかに手を入れた。その際にわざと尖った部分に接触し、手を切る。
かくして、Aはこの愛すべき"夢"と永遠に決別した訳である。
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ふうゆず - 泣いた (2019年5月4日 5時) (レス) id: 77992ccb5c (このIDを非表示/違反報告)
江羅古九 - 珍しいストーリーで面白かったです! (2019年3月27日 12時) (レス) id: 0bf8db909c (このIDを非表示/違反報告)
きの - 下のゆきさんという人とは別人です (2019年3月10日 4時) (レス) id: 6cf2837f77 (このIDを非表示/違反報告)
きの - 完結おめでとうございます オチですがなんだかいろんなルートがありますが個人的には谷崎さんとかがいいかなと思います 一番多いのは太宰さんルートみたいですがなんかいやだな 太宰さんはずっと夢主ちゃんと友達のままでいた方がいいと思います (2019年3月10日 4時) (レス) id: 6cf2837f77 (このIDを非表示/違反報告)
輝星奏 夢歌♪(プロフ) - 初めまして、完結おめでとうございます!大好きです!←(唐突な告白w)夢主に同調しすぎて最後は特に泣きっぱなしでした。心にずっと残る素敵な作品、ありがとうございました。私は太宰さんルート見てみたいです。これからも頑張って下さい! (2019年2月24日 21時) (レス) id: cb7767f193 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:レン | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/
作成日時:2019年2月3日 13時