小さな言葉がどろどろ ページ22
◇
時間軸も視点も変わり、敦のことである。
敦は会議の直後、小瓶から錠剤を出した。白くて丸い、ラムネのようなそれを手のひらに収める。握ればほろりと壊れてしまいそうなそれを口に入れようと傾ける__しかし。
細くて色白の腕が、割り込んで薬を奪った。
それは鏡花の手であり、薬をすぐさま取り返そうと走るが、既に鏡花の口の中であった。
「貴方の献身はこれ以上見たくない」
淡々と云うと、ソファに腰掛けAの手のひらを掴む。そう云えば初めてだ、と場違いな感想を敦は抱いた。
鏡花の体が横に倒れて、ぼふんと大きな音を立ててソファに乗った。
鏡花は死んだように眠っていた。
◇
水に溺れた感覚に、鏡花は不快感を表情に顕にした。口から漏れる泡とは反対に、息が出来るのが何とも矛盾の大きさを感じる。
流石夢、といったところだろうか。
「出てこい、A」
不躾に鏡花は叫ぶ。先輩への敬意ではなく、敦を縛る鎖のように巻き付く奴のように見ている鏡花からすれば当然だ。
「居るよ。貴方の目の前に」
「……え?」
瞬きした刹那、Aが瞳に映りこんだ。眼前である。Aは笑っても怒っても悔やんでもいなかった。清々しい表情だった。
「初めまして、かな。鏡花ちゃん」
「初めまして」
少し戸惑いながらも鏡花は返事を返す。礼儀正しい人だと心の中では賞賛した。
「助けなくていいよって、敦くんに云って」
「……っ!?でも貴方は出られない……」
「それでいいよ。だって生きる価値もないからね。一寸長い退職準備期間だったってことで、ね?」
何がね?だ、と鏡花は憤慨する。この人はお人好しだ。敦並みのお人好しだ。退職ではなく、人生の退去が真実。知らないとは思えない、人に迷惑を掛けたくないらしい。
「早く起きて……!」
「多分、無理。起き方を忘れちゃった。でも嬉しいな、こうやって寝なきゃ鏡花ちゃんとお話出来なかったもんね」
敦と交友を深めるごとに少しずつ性格から角が取れたAは微笑む。諦めた笑いだった。鏡花はハッと息を呑む。
「もう起きなさい、ここは君の来る場所じゃないよ」
「え」
尋ねる暇もなく、後ろから突き飛ばされる。そうして、鏡花は夢を後にした。
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ふうゆず - 泣いた (2019年5月4日 5時) (レス) id: 77992ccb5c (このIDを非表示/違反報告)
江羅古九 - 珍しいストーリーで面白かったです! (2019年3月27日 12時) (レス) id: 0bf8db909c (このIDを非表示/違反報告)
きの - 下のゆきさんという人とは別人です (2019年3月10日 4時) (レス) id: 6cf2837f77 (このIDを非表示/違反報告)
きの - 完結おめでとうございます オチですがなんだかいろんなルートがありますが個人的には谷崎さんとかがいいかなと思います 一番多いのは太宰さんルートみたいですがなんかいやだな 太宰さんはずっと夢主ちゃんと友達のままでいた方がいいと思います (2019年3月10日 4時) (レス) id: 6cf2837f77 (このIDを非表示/違反報告)
輝星奏 夢歌♪(プロフ) - 初めまして、完結おめでとうございます!大好きです!←(唐突な告白w)夢主に同調しすぎて最後は特に泣きっぱなしでした。心にずっと残る素敵な作品、ありがとうございました。私は太宰さんルート見てみたいです。これからも頑張って下さい! (2019年2月24日 21時) (レス) id: cb7767f193 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:レン | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/
作成日時:2019年2月3日 13時