吠えない犬など死んでしまえ! ページ21
◆
椅子に縛り付けられたAは睨みつつ、多少自由の利く上半身をバタバタと動かし続ける。「うがー!」と間抜けな声と共に机の上に倒れ込んだ。
机の上にはスープの入った皿とスプーン、そしてナプキンが置いてあった。まずスプーンを取るということを身振り手振りで示した与謝野女医はやれやれと頭を抱える。
「す、ぷ!めし!」というスープを示しているかスプーンを表しているか判らない前者の言葉とめしという明確な意味を持った言葉を喋るAに与謝野女医が呆れて云う。
「頂きます、だよ」
「いーます?」
「い・た・だ・き・ま・す!」
「いーたーだーきーまー!」
ま、及第点かと与謝野女医は云った。
そこからAはスプーンを掴み、幼児のような手つきでスープを飲む。ベチャベチャ、ぴちゃぴちゃと汚い音が響くが、今までからすれば随分マシだ。
口にたくさんのスープを付けながらAは、
「ごっそま!」
と笑って云った。
◆
「よさの、らんぽ、Aちゃんとニンゲン?」
「嗚呼、何処から如何見ても人間の女の子さ」
「僕がしつけたんだから当たり前だろ!」
Aは心配そうに乱歩と与謝野女医に尋ねた。あれから数月、血の滲むような努力によってAは野犬から人間へと変貌した。
喋るようになったのは一概にAの努力だろう。発声器すら退化しかけていたのに、たくさん言葉を覚えようとたくさん喋ったのだ。
「A、もっとがんばる!」
そしてAが社員になるまで、あらゆる言葉を覚えて、あらゆる言葉を聞いて、あらゆる言葉を学んで、平仮名を、片仮名を、漢字を習得した。
しかし過去が過去なだけに未だに誤字が多い。
そういうことだ。
◇
「努力不足、なんてこれ聞いて云えるかい?」
「……はは、なんですかそれ。フィクションですか?」
呆然と、無我に至った顔で太宰は云った。哀しみと苦しみと葛藤と全てを混ぜた表情で太宰は悲観する。今までなんてことをしていたのだろうと。
自分の脳裏に焼き付いたAの顔を思い出す。何時だって必死だった。真面目に、勤勉に、あらゆる仕事に全力で取り掛かっていた。それを自分は何て云った?
『君なんて、要らないよ』
見当違い?解釈違い?そんなレベルでは語れない。自分の固執に取り憑かれて云った言葉の大きさに太宰は絶句する。
何が昔の友人だ。同じくらい彼女は努力していた。
涙が頬を伝った。
後悔だろうか、否__今更引き返せない虚無感。
絶望だった。
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ふうゆず - 泣いた (2019年5月4日 5時) (レス) id: 77992ccb5c (このIDを非表示/違反報告)
江羅古九 - 珍しいストーリーで面白かったです! (2019年3月27日 12時) (レス) id: 0bf8db909c (このIDを非表示/違反報告)
きの - 下のゆきさんという人とは別人です (2019年3月10日 4時) (レス) id: 6cf2837f77 (このIDを非表示/違反報告)
きの - 完結おめでとうございます オチですがなんだかいろんなルートがありますが個人的には谷崎さんとかがいいかなと思います 一番多いのは太宰さんルートみたいですがなんかいやだな 太宰さんはずっと夢主ちゃんと友達のままでいた方がいいと思います (2019年3月10日 4時) (レス) id: 6cf2837f77 (このIDを非表示/違反報告)
輝星奏 夢歌♪(プロフ) - 初めまして、完結おめでとうございます!大好きです!←(唐突な告白w)夢主に同調しすぎて最後は特に泣きっぱなしでした。心にずっと残る素敵な作品、ありがとうございました。私は太宰さんルート見てみたいです。これからも頑張って下さい! (2019年2月24日 21時) (レス) id: cb7767f193 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:レン | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/
作成日時:2019年2月3日 13時