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過去の淵を覗き込んだら、過去もこちらを覗いていた ページ18



「アンタに野犬の話をしようと思ってね」
「野犬?汚い上に犬だなんて……余り聞きたくないですね」
「黙って聞きな」

苛立つ与謝野女医の言葉に、太宰は黙り込む。太宰は空気が読めないわけじゃない、読まないのだ。引き際くらいは弁えている。

「これは、ある日転がり込んだ野犬退治の依頼から始まったンだよ」

そう云って、与謝野女医は語り出した。


ある日の昼下がり、野犬は獲物を見つけて堪らず飛びかかる。涎が垂れることなど今更構うことはない、一直線に奪う。それはニンゲンのオンナという生き物であることを野犬は知っていた。

「きゃあぁああああああ!!」
「grrrrrr__ッ」

野犬が唸ると、オンナは目を瞑った。そして、横へ倒れる。太った腹が波紋を打って、装飾品が甲高い音を立てた。

オンナが持っていた食糧に手掴みでかぶりつく。小さな一欠片が命をつなぐ、命綱なのだ。零すことはしない。

野犬は顔と胴体と腕を二本と足を二本持っていた。野犬は自分が何かなんて知らない。ただ今日を生きるのに必死だった。


「野犬退治?探偵社がそんな依頼受けると思うの?」
「そこをどうにか……」
「だぁかぁらぁ、武装探偵社だよ?わんこごときになんで」

スーツ姿の男相手に乱歩は野犬退治の依頼を受けることを渋っていた。スーツの男は異能特務科の一人なのだが、威厳を打ち捨てたように乱歩に頼み込んでいた。

「乱歩さん、話くらい聞いてやろうよ……で、野犬は何処に出るんだい?大きさや特徴は?」
「野犬は擂鉢街の近くに出没情報が多く囁かれています。大きさは人間の子供くらい。特徴は、犬という立場でありながら、異能力を行使します」
「犬が異能力!?」

与謝野女医が有り得ないと目を開いて、荒々しい口調で尋ねた。異能特務科の男は大仰に頷く。

「だからこそ受けて頂きたいんです」
「仕方ないなぁ……名探偵の出番だね!」

興味を持ったらしい乱歩が、乗り気で依頼を受けることにした。咥えていた棒付きキャンディを左手に持ち替え、探偵社の外へ出る。

「え、何処に行かれるんですか?」
「だから、擂鉢街。捕まえればいいんでしょ?」

乱歩は軽々しく、笑って云った。

過去こそ枷→←螻蛄だって、水黽だって。



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作品ジャンル:泣ける話
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ふうゆず - 泣いた (2019年5月4日 5時) (レス) id: 77992ccb5c (このIDを非表示/違反報告)
江羅古九 - 珍しいストーリーで面白かったです! (2019年3月27日 12時) (レス) id: 0bf8db909c (このIDを非表示/違反報告)
きの - 下のゆきさんという人とは別人です (2019年3月10日 4時) (レス) id: 6cf2837f77 (このIDを非表示/違反報告)
きの - 完結おめでとうございます オチですがなんだかいろんなルートがありますが個人的には谷崎さんとかがいいかなと思います 一番多いのは太宰さんルートみたいですがなんかいやだな 太宰さんはずっと夢主ちゃんと友達のままでいた方がいいと思います (2019年3月10日 4時) (レス) id: 6cf2837f77 (このIDを非表示/違反報告)
輝星奏 夢歌♪(プロフ) - 初めまして、完結おめでとうございます!大好きです!←(唐突な告白w)夢主に同調しすぎて最後は特に泣きっぱなしでした。心にずっと残る素敵な作品、ありがとうございました。私は太宰さんルート見てみたいです。これからも頑張って下さい! (2019年2月24日 21時) (レス) id: cb7767f193 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:レン | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/  
作成日時:2019年2月3日 13時

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