【文スト】君は要らない【太宰治】

螻蛄だって、水黽だって。 ページ17

◆

谷崎の体は刹那、突き飛ばされる。衝撃によって目が覚めるという特性上、夢からAの手によって出ていくことを選択の余地なくさせられのだ。

ソファの上で現実を＿＿否、夢を＿＿もう一度確認する。リアルもファンタジーも紙一重だ、と谷崎は皮肉に思った。

そこに、谷崎を心配した与謝野女医が立ち寄る。

「なんだって……夢が……？」
「如何したンだい、谷崎？」
「与謝野女医……不味いことになりました。Aさんの夢が、崩れ始めているそうです……」

与謝野女医は驚愕に打ち震えるが敢えて動揺することはせず、急いで皆を集める。余りにも慌てた与謝野女医の様子に、太宰までもがAの夢についての会議に参加した。

そして、会議が始まる。

「Aはきっとこのままじゃ……夢から出られなくなる。憶測だけどね。……真っ暗闇で一人っきり、彷徨い続けることになるよ」
「そんな……！」

乱歩の言葉に、敦は哀しみと驚きを込めた言葉で返す。嘘だろ、と顎が外れそうな程わなわなと口元が小刻みに動いていた。

「谷崎、Aは本当に？」
「はい……」

未だにショックに打ちひしがれている谷崎に国木田は尋ねた。あそこまで追い込んだのは自分の責任もあったろうに、それに感謝されたのだ。無理もない。

「ふーん」

一人、冷めた態度で会議に参加する太宰はおもむろに過去を振り返る。織田作だって、安吾だって、仕事からみすみす逃げるような真似はしなかった。しかし、Aはなんだ。

探偵社員として、恥じないのか。

「太宰、後で一寸顔貸しな」

与謝野女医は太宰へ淡々と告げる。説教だろうか、と逡巡しつつも角を立たせないためにはーいと間延びした声で答えた。

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