移ろう電車の窓の外 ページ14
◇
国木田は、前に行って以来初めてAの夢に入った。薬を舌にのせた瞬間に特有の痺れを感じて、少し口元を引きつらせる。
「おい」
Aに一方的な言葉を掛けるが、なんら返すことは無い。そんなことくらい判っているのだ。自分の浅慮に苛立ちつつ、ソファに腰掛けてAの手に触れた。随分前と比べて骨ばったものだ、と感傷を覚える。
Aの体臭であった花の香りは病人特有の独特の匂いへ変貌し、薬の匂いが絶えない医務室でも目立っていた。
抗いがたい眠気につられて、そのまま横に倒れ込む。Aの唇が動いた気がしたが、稀に出る意味の無い寝言だろう。
しかし、国木田の目は唇を追っていた。
そのまま眠りにつく。考えを進めようとも眠気が邪魔をしてきた。焼き付いた映像と別れを告げるように、目を瞑った。
◇
「偽善家」
別に云った訳では無いが、目ではそう思っていることがひしひしと感じられた。目は口ほどに物を云うとは先人もよく云ったものだ。
細まった
「敦とは如何だ」
国木田は云った。別にAをいたわる口調ではない＿＿偽善家にならないよう、事実のみを淡々と云うものだ。ただ単に、気になっただけであった。
「敦さん……？まあ、仲は＿＿」
「……すまなかった」
文脈が成り立たないことくらい自覚していた。しかし今云わねば、きっと自分は上から目線でAの意思を踏みにじってしまうだろう。そう考えたのだ。
Aの目が大きく見開かれる。
「一寸、考えさせてください」
肩を
正しかったのが何方か、考える余地もないと思ってしまった自分を恥じる。そして、好意的に＿＿太宰の如き阿呆面で＿＿国木田は笑う。
「嗚呼、是非そうしてくれ」
向き合う努力を疎かにしていた自分が出来る、小さな一歩。しかし、国木田にとってはAに歩み寄る最初の大きな一歩だった。
「……うん」
下唇を噛んだ。前のような惨めさではない。
涙がこぼれないように、必死に耐えているのだ。
夢から自分の存在が曖昧になって、消えていく感覚を楽しむ。涙に潤んだ世界は輪郭を失って、柔らかく世界の色を変える。
Aが最後に微笑んだ気がした。
あの唇の意味を、ふと考える。寝言は確か＿＿
「ごめんなさい」
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ふうゆず - 泣いた (2019年5月4日 5時) (
レス) id: 77992ccb5c (このIDを非表示/違反報告)
江羅古九 - 珍しいストーリーで面白かったです！ (2019年3月27日 12時) (レス) id: 0bf8db909c (このIDを非表示/違反報告)
きの - 下のゆきさんという人とは別人です (2019年3月10日 4時) (レス) id: 6cf2837f77 (このIDを非表示/違反報告)
きの - 完結おめでとうございます オチですがなんだかいろんなルートがありますが個人的には谷崎さんとかがいいかなと思います 一番多いのは太宰さんルートみたいですがなんかいやだな 太宰さんはずっと夢主ちゃんと友達のままでいた方がいいと思います (2019年3月10日 4時) (レス) id: 6cf2837f77 (このIDを非表示/違反報告)
輝星奏 夢歌♪(プロフ) - 初めまして､完結おめでとうございます！大好きです！←(唐突な告白w)夢主に同調しすぎて最後は特に泣きっぱなしでした｡心にずっと残る素敵な作品､ありがとうございました｡私は太宰さんルート見てみたいです｡これからも頑張って下さい！ (2019年2月24日 21時) (レス) id: cb7767f193 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：レン | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/
作成日時：2019年2月3日 13時
