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カツ、カツ、カツ…
自分の靴音が馬鹿みたいに反響した。
でももうこんな音も聞くことはないんだな、と思うと不思議と口角が上がった。
キィ…
強い風が吹き込んでくる。
明るい日差しに思わず目を瞑った。
目を開けると、そこには―――
『おい、何してる』
「飛び降りるのに、丁度いいなって思ったの」
フェンスの向こう側にいる女。
能面をつけたかのようなその顔は、何も感じていないかのようにただ事実だけを述べた。
『死ぬのか』
「ええ」
彼女はゆっくりと目を閉じた。
そして、フェンスを掴んでいるその手を離した。
『おいっ！』
…………ッドシャ
五月の風が、血なまぐさい匂いを運んだ。
その匂いとともに、数々の声が頭の中に鳴り響く。
“愛されたい”
“もう何も信じられない”
“誰か気づいて”
“いやだ”
“いやだ”
“いやだ”
ピチョンッ…
不意に雫が落ちた音がした。
《…あぁ、やり直せたらな》
子供の頃の俺の声が静けさに打ち勝つように響いた。
なんの場面なのかも分からない映像がひとまとまりに押し寄せてきて。
目を覚ましたら、そこはベッドの上だった。
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作者名：茜夏 | 作成日時：2018年4月14日 17時
