お隣の推し様の世話役になっていた件【紫】

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ほんと、なんてことない話。

「ね、面白くもないでしょう？」

そう言って微笑んだつもりだったけど。

彼は私をぎゅっと抱きしめた。

「無理矢理笑おうとしなくていいよ、顔…辛そうだよ？」

「無理矢理なんてッ……！」

否定しようとしたが無理だった。

「貴之さんのことじゃなくて本当のお父さんを失ったのが辛いんでしょ？」

私を離して真っ直ぐ私を見つめる彼の瞳には私だけが映っている。

「！ッ……うっ……ひっく……おと……さん……」

「泣いていいよ、俺の胸で良かったら使って」

そんな優しいことを言われたら縋ってしまいたくなる。

「今だけ、胸をかしてください」

私は彼の胸の中で泣いた。気が済むまで。

「君は目を離すと消えちゃいそうだね」

「だったら、今だけはこうやって胸に閉じ込めておけばいいのでは？」

「閉じ込めるって……そこだけ聴いたら犯罪だよ？」

それでもこうやって大きな胸に抱かれてる間は私は消えることなど出来ない。

「……ジェルくんにも言われてるし今日は公式放送出ないでおこうかな」

それとなんの関係があるというのだろう？

「今日はお風呂とトイレと眠るとき以外は君を見ていようかな」

それは……。

今日だけ彼は私だけを見てくれるということ……なのだろうか。

「〜〜〜」

ポカポカと痛くない程度に彼の胸を殴る。

「わ、な、なに？」

「なーくんの……バカ……」

そんなこと言わないでほしい。

期待させるようなことを言わないで。

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