不思議な気分 ページ2
準備、と言っても彼女は六式をマスターした諜報部員。
何をすればいいんだろう、と与えられた個室の簡易ベッドに腰をかけ考える。でも思い浮かばないから何も持っていかなくていいんだろう、と僅か1、2分しか悩まず、またボーっとする。
部屋には簡易ベッド、備え付けのドレッサー、テーブル、タンス。
Aが買い足したものはシャンプーなどの消耗品の他、下着などの衣類。
年齢不相応な質素な部屋で。娯楽のひとつもない部屋で。
やはりボーっと明日が来るのを待つ。眠くなったら眠って、気になったらシャワーを浴びればいい。そんな考えのようで。
｢あ、でも縄で拘束するとか言ってたっけ｣
ふと、思い立ったAがトンッとベッドから軽快に飛び降り、備品室へ。
途中すれ違ったカリファに｢相当怒ってたわよ、あの男｣と話しかけられ、数秒の沈黙の後｢どうして怒る必要があるの｣と。
｢さあ？あなたがルッチの言うことしか聞かないからかもね｣
｢下僕がご主人様の言うことを聞くのは当然だと思うけど
私はあの人、きらいだし。弱いのに偉そう｣
｢奇遇ね、私もよ｣
曲がり角でお互い違う方向に曲がり、Aは備品室と書かれたプレートを確認し、中に入る。
電気をつけて、頑丈そうなロープを片手に、もう片方の手には海楼石の手錠が握られている。
それから来た道を戻り、今度は誰とも会うことなく自室にたどり着く。
｢来るのなら言っていただければ、おもてなししましたのに。ルッチさん｣
と、先程、Aが座っていた場所に腰を下ろす男にそう告げる。互いに吃驚するようなタイプでは無いからか、平坦な日常である。
｢飯の時間だ。迎えに上がった｣
｢さっき、食べたよ｣
｢またボーっとしてたのか？もうあれから4時間はたった。外を見てみろ、真っ暗だ｣
そう言われ、窓に顔を向けるA。眉を顰め、
｢とても不思議です。
今日はどちらに行かれますか｣
｢なんの気分だ？｣
｢お魚ステーキの気分です。
でもルッチさんの食べたいものが私のいちばん好きな食べ物なので、好きなお店に行きましょう｣
抑揚なく淡々と喋るAに、ルッチは手を出す。
｢来い｣
｢はい。ルッチさん｣
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作者名：らむち。 | 作成日時：2023年1月28日 11時
