何とかしてよ伊沢さん

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｢聞いてくださいよ！俺ガチで昨日バナナの皮で滑って｣

｢いつもの事じゃん｣

｢アンタはいつも俺をなんだと思ってるんですか！！！！｣

向こうでこうちゃんさんが興奮気味に話してるのも右から左へと流れていく。
伊沢さんに振られてから一週間以上経った。

あれから伊沢さんとも普通に喋ってる。
でもどうしても全てが演技になってしまうのだ。

伊沢さんが笑う度に胸が苦しくなる。
笑顔にときめいて
収録中に何度も好きって叫びたくなる。
その度にマイクになにも私の声が入らないように口を抑える。
編集中に観ないでって全ての動画データを削除したくなる。
観ないで、誰も伊沢さんを観ないで。
テレビをつけて、つい番組表に伊沢の名前を探して。

ダメだ、世界中どこに行ってもQuizKnockである限り伊沢拓司から逃げられない。

｢伊沢さん…｣

私の呟きは、賑やかなオフィスで誰にも拾われることなく消えていった。

｢Aちゃん｣

｢はい？｣

｢最近疲れてるみたいだね、学校忙しい？｣

山本さんが話しかけてきた。
優しそうな、それでいてこっちを気遣うような笑みを浮かべている。
手には2人分のコーヒーを持って。

｢Aちゃんのために砂糖いっぱい入れたから！｣

こういう時って他人の優しさが染みたりする。

｢山本さん…｣

｢ん？どうしたの？｣

｢いえ、なんでもないんです。頂きます。｣

ん、ちゃんと甘い。

｢山本さん、私がいなくなったら寂しいですか。｣

｢えっ？！急にどうしたの、そりゃ寂しいよ〜｣

｢本当は居なくなって欲しいって、思ってんじゃないですか…｣

｢Aちゃん酔ってる？｣

収録するよー！というふくらさんの掛け声に山本さんが反応した。
話聞くからねって私の頭をポンポンしてそっちに行ってしまう。

話、すれば良かったかな。山本さんに。
山本さん優しいし、聞いてくれてただろうな。
でももう遅い。
私は既に決断しちゃってたから。



｢Aちゃんも伊沢も、あんま無理しないようにね〜じゃ、また！｣

最後のふくらさんが出ていってしまうとまた私と伊沢さんは2人っきりになった。
伊沢さんは私に、わざわざ話しかけてはこない。

｢…あの｣

だから、私が話しかける。

｢ん？｣

｢伊沢さん、すいません。私…｣


QuizKnock、辞めたいです。


また、酔ってもないのに吐くように絞り出した声で、私はでも確かに素面の社長にそう告げたのだった。

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