1年後の約束 (ページ7)

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第56話ページ7

膨らんだ蕾が揺れる。風は少し暖かい。
彼から貰ったネックレスを煌めかせて、春を感じる道を歩く。
いつもの駅で、彼と待ち合わせるのは何日ぶりだろうか。
何となく懐かしい気がした。
「待ちましたか？」
「ん〜ん全然。」
そう言って彼は私に背を向ける。
いつもの銀色のチェーンが首元から覗く。日光に照らされ、光を反射する。
「なんか、久しぶりですね」
「そーお？確かに最近忙しかったからね」
改札を抜けると丁度電車が来たようで、風が私たちを煽る。
乱れた前髪を軽く直すと彼が振り返る。
「大丈夫？」
「はい、全然」
扉が開くと、人がぞろぞろと降りてくる。なんだかんだ電車に乗るのも久しぶりな気がしてきた。最近は病院に行く時しか電車に乗っていない。出掛けるなんてあまりしていなかった。
というか、彼に会うまでは彼の秘密を知るまでは出掛けることも０に等しかった。だからこそ、彼に誘われない限り出かけることは無い。
電車はあまり慣れていない。ましてや、満員電車なんて以ての外だ。いつもは早朝か深夜、人なんてほぼ居ない。
鉄の棒に掴まって揺れをしのぐが、やはり疲れる。壁に背中を預けて外を眺めると、少しずつ景色が変わっていく。
高い建物が少なくなっていくにつれて、人も減っていく。空いてきたところで席に座った。
「遠出とか久々だぁ……」
「また旅行とか行きたいですね」
「だねぇ」
流れる景色を眺めながらそんなことを呟いた。

電車をおりるとほんのり磯の香りが漂っている。微妙な香りに首を傾げながらも駅を出ると錆びた時計が目に入った。
「潮風で錆びてりゃあ」
「海近いですね」
少し歩くと海の匂いが濃くなっていく。遠くに見えた地平線に少しだけ、胸が弾んだ。
「あ、見えた！」
そう言って少し走り出す彼は嬉しそうにこちらに振り返る。
「地平線ってさ、絶対たどり着けないのに目指しちゃうよね」
「……ちょっとだけ、分かります。」
砂浜に足をつけると指の間に砂が入り込んで少し擽ったい。海辺で足をつけている彼は冷たいと1人で騒いでいる。
ズボンの裾をまくって足首を海水につけながら振り返る。くしゃりと笑って手招きした。
「おいでよ、御山さん」
彼の笑顔につられてコンクリートから立ち上がる。足を少しつけると想像以上の冷たさに思わず身を引いた。
「冷たくない？」
「冷たいですよ」
そう言って私の手を引く彼は子供のように無邪気で。届かない地平線に手を伸ばしては少しだけ、落ち込んだりしていた。