1年後の約束 (ページ3)

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第52話ページ3

久々のオフにやることがない。
今日くらい何も無い日があってもいいだろうか。
隣の彼はまた欠伸を飲み込む。
少しずつ仕事を片付けていく彼は未来を見据えている。終わりを見ている。
溜息が溶ける。
「どーしたの？」
「……なんでも」
「嘘だぁ」
「嘘ですけど？」
そう言うと彼はぷくっと頬を膨らませてこちらを向く。そんな仕草でさえ、私の胸を抉る
彼から目を逸らしてじんわりと滲んだ蛍光灯が眩しくて目を瞑る。
「ごめん」
「…………はぁ？」
「え、違う？」
とぼけたような顔をする彼に呆れたため息がこぼれる。
「……違くはない、です」
「やっぱり」
「悪いですか？」
「んーん、ありがと。」
彼は珍しく私に微笑まなかった。
その代わりに空を見つめ目をそっと閉じる。
ゆっくりと開いた瞼から覗く潤んだ瞳がゆらりと動いて私を見る。
「……ほんとにありがとね」
「伊沢さんらしくないですよ？」
そう言って誤魔化すと彼は悔しそうにくしゃりと笑う。
そんな彼につられて、私も少し笑ってみせた。

苦い？かな
彼女から渡されたチョコレートは俺の口に合う苦めの味。彼女が甘いものを食べるところも想像できないし、彼女らしいと思った。
小綺麗な箱に詰められたチョコレートはキレイな正方形をしており、彼女の性格が溢れ出ている。
「うん、美味しいありがとう」
「それは良かったです」
少し微笑む彼女に俺も微笑み返すと紙袋の中を眺めて数を数えている。
「渡辺君は今日来ますか？」
「うん、遅くはなるって」
「今いる全員に渡しちゃいますね」
「そーしてあげてー」
一人一人にチョコを渡していく彼女はにこりと微笑む。本当に笑うの上手くなったよなぁ
母親のような台詞が出てくるが本当にそう思う。自然と口角が上がる。
全員に渡し終えたあと、冷蔵庫に袋を入れソファに座る彼女は彼を見つめていた。
リボンの色が違うことにも彼女の丁寧さが見え隠れする。
「ん〜おいし」
「ちゃんと、あげましたよ？」
「期待してよかったぁ」
不思議な距離感の2人はまた笑った。
山本やこうちゃんみたいに特別仲がいい訳でもない。でも2人には謎の安心感みたいなものがある。
似た者同士だとは思うけれど、それだけであんなに打ち解けるだろうか。
「ふーくら、どうしたんだよ」
「え、あいや、なんでもない」
「あのふたり？」
「……まぁ、そうだけど」
河村はじっと2人を数秒間見つめ、俺の方を向いた。
「わかるよ、俺も」
そう言って微笑む河村が何故か遠く見えた。