第50話 ページ1
窓の外に雪が降る。
1月も終わり、もう2月になってしまった。
青墨の空に白縹の雪が散っている。
今日は夜のシフトだったので、コンビニのおにぎりを片手に今は休憩中。うかうかしていられない。さっさと食べて交代しないと。
いつコールが来ても可笑しくないんだから。
おにぎりを食べ終えて、交代する。今日は井上先輩と一緒だ。上野さんは用事があるらしい。
「上野ちゃん、デートらしいよ？」
「彼氏、いるんですか」
「可愛いもんね〜」
小さくて、愛想がいい。女の子らしい彼女はやはり私とは正反対。
好きという感情さえ、あまりわかっていない私はその話を聞くのは少し憂鬱だった。
「見回り行ってきます」
「いってら〜」
ひらひらと手を振る先輩に軽く会釈して駆け足でその場を去る。深夜なので、患者さんの状態を確認して静かに部屋を出る。見回りが終わっても私の気分は落ちたままだった。
ガコンと大きな音を立てて落ちる缶を取り出して缶を開ける。一口飲んで気がついた。
「……間違えた」
苦い味が口の中に広がる。いつもは微糖を買っているのに、ブラックを買ってしまった。
感じる味が、今の自分の感情と重なって沈んでいく。
壁に背中を預けずるずるとその場に座り込んだ。缶を指先で持って膝を抱え顔を填めた。ゆらゆらと手を揺すり、中の珈琲を混ぜるようにする。
混ぜても意味ないけれど。
ゆらりと立ち上がり、テーブルに缶を置いて窓の外を見つめた。
遠くに見えるビルから光が漏れる。
窓に着いた手が冷えていく、結露して濡れた窓に手形が残る。流れていく水滴を数秒間見つめていた。
「御山さ〜ん？あ、いたいた」
先輩が眠そうな目を擦りながら私に手招きする。
「なんですか？」
濡れた手を裾で拭って振り返る。先輩は私の携帯を持っていた。
「電話、ふくらさん？って人から」
入口の柱にもたれかかって携帯を差し出す先輩に近づいて端末を受け取る。それを耳に当てると何故か彼の声が聞こえた。
「ごめんね〜、仕事中に」
「全然大丈夫です。」
「山本がさ、熱出しちゃって……」
「終わったら行きましょうか？」
「疲れてるのにごめんね……」
「全然」
通話終了ボタンを押して腕を下ろす。
時計を見ると、私の勤務はそろそろ終わる頃だった。
「先輩、ありがとうございます」
「いーのよ、それより、大丈夫だった？」
「はい、これからオフィスに行きます」
「無理しないでね？」
「わかってます」
荷物をまとめて、病院を出る。
白い息が空に滲んで溶けていった
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：けろすけ | 作成日時：2020年4月28日 17時
