第20話 ページ21
しばらく風に当たっていると段々と冷静になってきた。
そりゃそうだ。死なんて誰だって意識しない。
目の前の人が自分より先に死ぬとか、目の前で死ぬとか、そんなの誰一人として考えない。
当たり前なんだよ。
永遠だと思うことも、命を甘く見ることも、
普通なんだよ。それが。
私が可笑しいんだよ。
そう心の中で決めつけた瞬間、螺旋階段に続く扉が開かれ勢いよく振り返る。
そこには心配そうな顔をした彼が立っていた。
「ごめん」
彼の口から放たれた言葉、なんの謝罪が理解出来ず返す言葉が見つからない。
居心地が悪そうに目を逸らす。逃げようとはしなかった。扉から半分だけ出していた体を全て出して扉を閉め、寄りかかる。
「ごめん、本当に」
分かっているんだろうか、私が何に対してイラついたのか。
彼なら分かっていそうだと思った。
「すみません、イラついて。」
「俺の方こそごめん、あれは失言だった。」
ほら、分かってる。
そろそろ冬本番の夜風は私の髪を軽く靡かせる。頬を撫でられその冷たさに目を細めた。
遠くの方の灯台の光がチカチカと空に浮かぶ。
点々と光の点るビルが立ち並ぶ東京は夜になって明るい。
それは、この世の誰かが残業だとかをしてくれているからであって、夜景が綺麗だとか、空が明るいとか。そんなの奇跡じゃない。
彼は相変わらず扉にもたれ掛かり、俯いたまま白くなりかけた息を吐く。
沈黙が余計に冷たさを増す。
「なんで、死ぬんでしょうね。」
出てきた言葉はずっと前から考えていたことだった。私の言葉に彼は顔を上げた。見ていないから断言は出来ないけれど。
「死んで何になるんでしょう。残された人は悲しいと思うのに。死んでいいことなんて何一つないじゃないですか。」
スラスラと出てくる言葉に私でも驚いた。言いたいこともはっきりしないのに。
「無意味な事だと思いませんか？」
彼の顔を見ずに質問をする。彼は困るだろうな。だって私は残される側の人なんだから。
「…………世界は変わっていかないといけないんじゃない？」
「変わらなくていいです。」
思ってもいない言葉がこぼれた。自分がこんなことを思っているのかと何故か不安になる。
遮るように言ってしまったので彼は黙る。
「……変わって欲しくない。」
彼が扉から体を離したのか扉がガタンと音を立てる。
ふと後ろから手が回された。私の肩に顔を填めて呟くように彼が言った。
「俺だって変わりたくないよ。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 16人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
けろすけ(プロフ) - ありがとうございます!!嬉しいです！これからもマジで頑張ります！ (2020年4月23日 11時) (
レス) id: 38524bae7d (このIDを非表示/違反報告)
hina(プロフ) - コメント失礼します。いっつも楽しみにしてます。描写がめちゃめちゃ好きで読んでると思わず「儚ねぇ,,,」ってなります。応援してます！これからも頑張ってください！ (2020年4月23日 1時) (レス) id: eee79864a1 (このIDを非表示/違反報告)
けろすけ(プロフ) - すずどらさん» コメントありがとうございます!!良かったです!!勢いで投稿しているので、消したり作り直したり沢山すると思いますが完結できるように頑張ります！ (2020年4月21日 15時) (レス) id: 38524bae7d (このIDを非表示/違反報告)
すずどら - 初コメ失礼します。良いですね、涙腺が緩みっぱなしです。izwさんと夢主ちゃんの暖かい風景に隠れた切ない秘密がぐっと来ます。izwさんがいなくなったらメンバーは号泣しそうだな、なんて妄想しています。勝手に語ってすいません。これからも頑張って下さい。 (2020年4月21日 11時) (レス) id: 60ae3ef212 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：けろすけ | 作成日時：2020年3月20日 13時
