赤い瞳 ページ3
目線が交わる。
真っ赤な瞳が、暗闇の中で怪しく光る。
どれくらい時間が経っただろうか、いやほんの数秒のことがとてつもなく長く感じた。
彼女の表情がみるみるうちに笑顔に変わる。
貼り付けられた笑顔がそこにあった。
少し微笑んだまま俺達の車に近づいて、窓をコンコンと叩く。
俺は咄嗟に窓を開けた。
貴「どうしたの？みんなして。なんかあったの？」
平然を装っているようだったが、いつもとは違うと確信できる。声が違う。仕事の声だった。
俺達と話す時にはもっと緩んだ感じで話すのに、今の彼女はテレビに映っている時のような堅苦しい感じがした。
須貝「疲れてるだろうから迎えに来たんだ。」
俺はハンドルを強く握りながら彼女に言う。
山本「Aさんの家より、オフィスの方が近いでしょ？だから泊まって行ったらどうかなって」
山本が付け足す。みんなも軽く頷いた。
伊沢は少し下を向いたままだった。
Aさんが一瞬固まる。やっぱり変だ。
気にしないように頑張っているうちに休めるところが無くなってしまっているんだ。
貴「いいの？じゃあ今日は泊まろうかなー」
すぐにニコニコしながら返事をした彼女を俺達は車に乗せた。
車内は異様に静かだった。
彼女も窓の外、遠くを見つめていた。
川上「あの、どうするんですか？これから…」
川上がそれとなく聞いてきた。俺達は顔を見合せた。
ふくら「あのAさん？」
ふくらさんが話を切り出した。
貴「なんですか？」
貼り付けられた笑顔で彼女が振り返る。
ふくら「なんかあった？」
赤い瞳が止まる。そしてすぐに逸らした。
貴「別に何も」
いつもより冷たく放たれたそこ言葉。
いつもの彼女からは感じられない程の冷たさだった。
伊沢「A、いいから」
俯いたまま伊沢が言う。伊沢を見つめていたAさんも顔を伏せた。
貴「ごめんなさい…」
最初に放たれたのは謝罪の言葉。
その後も涙を堪える彼女の声だけが、車内に響いていた。
オフィスに着いてからも、車からは降りずに彼女の言葉を待った。
落ち着いたのか、顔を上げた彼女の顔には貼り付けられた笑顔は無かった。
赤い瞳から、涙が1粒零れ落ちた。
貴「拓司から、聞きましたか？」
彼女の言葉に俺達は頷く。
貴「でも私、お姉さんと仲良くなりたいんです。」
貴「私には家族がいないから。」
彼女の言葉に俺達はただ頷くことしか出来なかった。
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作者名：けろすけ | 作成日時：2020年1月13日 18時
