・ ページ28
「遅いなぁ。また通り過ぎとったん？」
『違いますよ！』
はははっと明るく笑うAさんを見つめる。
顔の傷からの出血は殆ど止まっているが、よく見ると頬が砂や泥で汚れてしまっていた。
『ちょっと拭きますね』
Aさんはこちらに身体を向けて、瞼を閉じた。まつげがふさふさ。
優しく泥や血の跡を拭いていくと、少しくすぐったそうに口元を綻ばせる。
ある程度綺麗になったところでハンカチを顔から離すと、Aさんはパチッと目を開けた。
「後は自分でできるから大丈夫やで」
『え、でも』
「そのかわり、話し相手になったって？」
『はい……』
Aさんは自分の机の横に掛けてあった手提げ袋を持ってきた。机の上に袋に入っていた消毒液やバンドエイドが並べられていく。
いつも1人で手当てをしていたのだろうか？
いかにも使いさしのそれらを見ながら思う。
「そういえば、今日は前みたいにいらん奴ら来んかった？」
慣れた手つきで頬にバンドエイドを貼りながら聞いてくる。
『特に何も無かったですよ？』
「……それならいい」
『？？？』
Aさんの質問に疑問に思いながらも、今日読んでいた小説について話した。
せっかく面白い本を教えてもらったんだから、感想くらい伝えるべきでしょう。
『この前薦めてもらった本読みました。めちゃくちゃ面白かったです！』
「せやろ？ ここ最近出た本の中では一番お気に入りやねん」
『最後のシーンとか結構解釈分かれそうでしたけど、Aさんはどう考えました？』
「あー、あそこな。おれはな、」
表情をくるくる変えながら、手当てをする手を止めてまで話すAさんを見て、思わず笑みが溢れる。
狼のように鋭い目つきで威嚇し、自分の機嫌を損ねた者には男女構わず暴力を振るう？
そんなの噂以外もなにものでもないじゃないか。
確かにAさんはつり目だし、気分屋だ。
でも、自分の機嫌のままに人を殴るような身勝手な人ではない。
もっとチャーミングで、真面目で、甘えん坊で。狼というよりも大型犬という感じ、なんて怒られてしまうかな。
やっぱり噂なんてあてにならない。
『ほら、話すのに夢中で手が止まってますよ』
他人がどうこう言うAさんではなく、私の知る彼を信じたい。
だから今は、彼の拳にある傷は見ないふりをした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 403人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
っっっっぽ(プロフ) - ぐぅ。さん» リクエストありがとうございます！続編の方で書かせて頂きますので、是非続編の方もも宜しくお願いします！ (2021年4月2日 12時) (
レス) id: 623bb5a80c (このIDを非表示/違反報告)
ぐぅ。 - 更新頑張って下さい!! (2021年3月31日 0時) (レス) id: 79439debff (このIDを非表示/違反報告)
ぐぅ。 - 面白いです!リクエストなんですけど夢主君が暫く寝れなくて気遣ったemさんが添い寝or膝枕してほしいです!! (2021年3月31日 0時) (レス) id: 79439debff (このIDを非表示/違反報告)
っっっっぽ(プロフ) - 碧さん» そう言っていただけて嬉しいです。有り難うございます！ (2021年3月1日 11時) (レス) id: 623bb5a80c (このIDを非表示/違反報告)
碧(プロフ) - めっちゃ面白いです！ 更新頑張ってください！ (2021年2月26日 16時) (レス) id: 83cb21b3f5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：っっっっぽ | 作成日時：2021年2月4日 1時
