Call me back again【短編集】

Treat ページ10

-wtnb side



込み合った街を抜け駅のホームに来たところでまた人混み。正直嫌になりそうだったが、そこで知っている人の顔を見かけた。

理学部のAさん。確か同い年。
駒場では割と有名なリケジョで、自分の周りの友達の間ではたまに話題に上がる人だった。
だか、よく見ると様子がおかしい。噂になるほどの容姿は確かに綺麗だが、顔色がどうも優れないように見えて。

電車に乗り込んでからも少し目を追っていたが、やはりフラフラしている。彼女には憧れにも似た感情を抱いていたが、今は彼女のために何かしたいという意思が強くなった。
平静を装って彼女に声をかける。



｢どこまで乗りますか？｣

『駒場です、駒場東大前』

｢あ、一緒です。よかった｣



具合が悪そうなAさんを1人にするような事にならずに済みそうだ。俺東大生で良かった。赤門がない方だけど良かった。


降りる頃には大分顔色は良くなっていて、血色が良くなったことから本当に美人だなと感じる。
ちゃんと名乗っておこう。きっとこんな出会いはもう無いはずだ。



『もしかしなくても東大生ですか？』

｢そうですよ、法学部4年の渡辺航平です。こうちゃんって呼ばれてます｣

『こうちゃん？』



半分聞き返すような感じで名前を呼ばれ、何ともむず痒い。嬉しいけれど、呼んでくれたらなぁ、なんて。



｢そう、こうちゃん。あなたも東大生ですよね？たしか、理学部のAさん｣

『え？…なぜ名前を？』

｢なんででしょうね｣



関係をここで終わらせないために、少し強がってみたりする。柄じゃないってツッコミは受け付けない。

ハロウィンは好きではないけど、ちょっといいお菓子を買っていたことを思い出す。よし、これは一手頑張ってみよう




｢どういうトリックか分かったら、お菓子あげますね｣









きっとAさんは分からない。
俺が昔から、あなたが好きだってこと。







-fin

目を見たら -izw→←Trick -wtnb

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す