Call me back again【短編集】

Trick -wtnb ページ9

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昼前なのに、仮装した人が溢れる渋谷駅前。
乗り換えだけで使う私からしたら歩きにくくて嫌でしかない。


井の頭線のホームに着くのに普段の倍くらいの時間がかかった。だが、これから乗る電車は各駅の列車なので空いていて絶対に座れる。


…と、思っていたのに。
ハロウィンだからか、ここも人が多い。
そしてお菓子やら香水やらの匂いが充満する車内は、とても空気が悪かった。



『(やば、人酔いするこれ…)』



大学に向かっているだけなのに、とんだ災難だ。
何とか背もたれのある方へ歩いていくが、既に少しフラっとする。



｢あの、こっちどうぞ｣

『…え？』

｢この辺なら寄りかかれますから｣



1人の男性が小声でドア側へ誘導してくれた。
見た目は幼いように見えるが、背格好的に大学生だろうとぼんやり思う。



｢昼間から、嫌になりますよね｣

『…はい、ほんとに』

｢どこまで乗りますか？｣

『駒場です、駒場東大前』

｢あ、一緒です。よかった｣



よかった、の真意は分からないが、こちらとしても1人で居るよりは多少安心出来る。今どき見ず知らずの人をこんな風に気にかけてくれる人がいるんだなぁ。


その後も電車内は相変わらずだったが、ドア側にいたため扉が空く度に外の空気が吸えて段々と気持ち悪さも無くなっていった。
そして、目的の駅に到着。



｢大丈夫でした？？あれは気分悪くなりますよね｣

『大丈夫です、ありがとうございました。…あの、もしかしなくても東大生ですか？』

｢そうですよ、法学部4年の渡辺航平っていいます。こうちゃんって呼ばれてます｣

『こうちゃん？』

｢そう、こうちゃん。あなたも東大生ですよね？たしか、理学部のAさん｣

『え？…なぜ名前を？』

｢なんででしょうね｣



まぁ俺記憶力はいいんで、と自慢げな顔をしてくるこの人は加えて一言、



｢どういうトリックか分かったら、お菓子あげますね｣




なんとも奇妙で、でも新鮮なハロウィンだ。






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