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『つー君。』
ひどく冷え切った声が出た。
つー君がべしゃりと床に落ちる。
「ええ…体動かない…、もしかしてA怒ってる？」
『サクちゃんは私の家族だから、引っ付いても仲良くしてるなぁ…くらいにしか思わない。でも他の女の子は別…、あまりにお顔が近いと…なんだかとっても不安になるの。
思わず、夏くんに泣きつきそうになるくらい。』
「えっ？」
「えっ♡」
するりと夏くんの首に腕を回す。
『つー君、他の女の子と、こんなに近い距離で話すんだよ？ひどいよね夏くん。』
「それはひどいですね！Aさん！」
『だって、このままちゅーって、出来ちゃいそう。』
「い、いいんですか！？」
「えっ…！えっ…！Aちゃんと夏彦先輩ってそういう…！？」
キャーっと手を頬に当ててはしゃいでいる寧々ちゃんには悪いけど、全く違う。
「待って！！！ダメダメダメ！！！ごめんA！！！ごめんなさい！！！
別にそんなつもりじゃなかったヨ俺！！！」
ちら…とつー君を見れば珍しく焦った顔。
クスリ
私は夏くんから離れる。茶番に付き合ってくれたお礼に頬だけ摺り寄せて。
「美少女から頬ずりを受けた…。めっちゃ嬉しい…。」
「夏彦…。」
「あっ俺はお嬢一筋です本当です！」
冷めた視線を男の子たちに寄こすサクちゃん。
『つー君が楽しそうなの邪魔したくないけど、女の子たちには…ほどほどのお顔の距離にしてくれたら…嬉しいなぁ…。』
ぱしゃりとしゃがみ込む。動けないつー君はわかったと言った。
その返事を聞いて、つー君の手を取り立たせてあげる。もう体は自由になっただろう。
「ごめんね、A…、まだ怒ってる？」
『もう怒ってないよ。
私こそ…ごめんなさい…。
つー君のこと自由にさせたいのに…、他の女の子と距離が近いのを見ると、嫉妬で自分が自分じゃなくなりそうなの…。』
「…あのね…A…。」
つー君が私の耳元に唇を寄せる。
「これ、Aに嫉妬してもらうためにわざとやってたって言ったら、怒る？」
こそり
小さな声でそう言われた。
驚いた顔でつー君を見れば、ただただ彼は笑っていた。
「もっと俺のことしか考えられなくなってね、A。」
『…もうとっくにそうなのに…？』
「もっと、もっと、もっとだヨ。」
とりあえず、仲直りのチューしよ。
私の唇は、いとも簡単につー君に奪われた。
そして、なぜかそこからの記憶がない。
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作者名：カノン | 作成日時：2020年11月22日 3時
