視線 ページ8
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俺に向けられる柔らかなその視線を、いつからか直視出来なくなっていた。
我ながらチョロいなとは思う。
暗に好きだと伝えてくるような視線に当てられて、いつしか俺も小瀧のことを好きになっていた。
けれど直接言われたわけじゃないから、別に小瀧が俺のことを好きでもなんでもない可能性もまだあるわけで。
俺の勘違いだったらと考えるとどうしても怖くて、その先へ一歩踏み出す勇気が出ない。
いっそこのままの関係でいいなんて綺麗事を並べて、そのくせ今まで通りの付き合い方は出来ていないのだから俺は弱い。
視線を感じるとそちらを向けなくて、目が合うとうるさいほどの心臓の音に耐えられなくて、逃げ出してしまいたくなる。
『しげ』
「ん、?」
『曲最高やった。やっぱしげの作る曲好きやわ、俺』
雑誌撮影の待ち時間の楽屋の中。
俺の隣に腰掛けて、またあの柔らかな視線を向けながら曲を褒める小瀧のことを、また俺は直視できない。
小瀧は俺の曲の大ファンだと言う。
それは『間違っちゃいない』を作ったあたりからだった。
各所で俺の曲を褒めてくれて、カラオケで歌ったなんて報告もされたり、なによりそれを語る小瀧の顔はデレデレという表現が似合うほどに溶けていて、それがたまらなく愛おしく思えた。
ちょうど、そのあたりからだ。
小瀧からの柔らかな、それでいて心の奥底を突き刺すような視線を感じるようになったのも、それに俺がまんまと堕ちてしまったのも。
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作者名:ゆうま | 作成日時:2023年5月1日 18時