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「あがって」
『…おじゃまします、』
一歩踏み入れた家は、あの時と間取りは全く違うはずなのに、ちょくちょく目に入る家具とか、ふわっと香る匂いとか、変わっていない物たちの方が多くて、涙が込み上げそうになった。
あの時の俺は、お互い幸せだと、そう信じて疑っていなかった。
「…ごめん、急に」
『や、全然、』
「…今日、インタビューで話したことあるやんか、」
『うん、』
「あれについて、もうせっかくの機会やし、説明、したくて…」
『説明…、？』
俺がソファに腰掛けたのを確認し、そんな俺との間を人一人分くらい空けてソファへ座ったしげは、ぽつぽつと話し始めた。
説明も何も、あれについては俺が勝手に始めて勝手に終わらせたことじゃないか、と思った。
むしろ説明しなければいけないのは俺の方…、いや、そもそも終わったことに説明なんかいらないはずだ。
「…俺さ、ずっと小瀧のこと、好きやってん」
『え、』
「いつからとかもう分からん。どれだけゾッコンになってるかとか、知りたくもなかったし」
何も無いテレビの方を向きながら、愛おしいとでもいいたげな垂れた目で、微笑みで語る。
「でもな、言うたらあかんって思ってた。告白した小瀧のこと責めるわけちゃうけど、実際言わん方がええのはそうやんか」
『まぁ…』
「せやけどあん時小瀧に告白されて、あぁもう、どうでもいいやって思った。世間体とか一般的とかそういうん全部、もうええわって」
「せやから俺はな、ずっと好きやったんやで、小瀧のこと。告白される前も、されてからも」
やっとこちらを向いたしげの目は、うるんでいた。
それなのにそんなことを感じさせないような優しい微笑みを浮かべるのが堪らなくて、そっとしげを抱きしめた。
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作者名：ゆうま | 作成日時：2023年5月1日 18時
