くだらない ページ42
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『…多分、俺たち別れた方がええと思うねん、』
どこにも逃げ場のないどんつきまで追い詰められたような表情で、小瀧は言った。
俺は、何も言えなかった。
ただ「…そっか」って相槌を打つのに精一杯で、本当は言いたかった「嫌だ」の一言すら口にすることは出来なかった。
俺は、どうしたらよかったんだろう。
聞き分けのいい年上を演じられたのなんてあの一瞬だけで、あれからも俺は小瀧への恋心を消し去ることも出来ず、ずっと心に抱え込んでいる。
今もまだ、小瀧とまた恋仲になれることを、どこかで望んでしまっている。
あの時大人しく別れの言葉を聞き入れた俺は、正解だったのだろうか。
「…おはよう」
『ん、おはよ』
「まだ小瀧だけなんや」
『うん。今日みんな遅いやんな』
『道混んでんのかな？』なんてスマホをいじりながらそう返事をするだけでも様になるこの小瀧とは、つい何ヶ月前かまで付き合っていた。
付き合ったきっかけこそ小瀧からの告白だったものの、俺は多分、小瀧が俺の事を好きな以上に小瀧のことが好きだった。
それこそ、自分の性別や職業、そんな自分達を取り巻く環境すらどうでもよくなってしまうくらいには、小瀧のことが好きだった。
「…小瀧」
『うん？』
「なんか近ない？」
『っえ、ごめん、全然無意識やった』
「いや、別にええんやけど…」
「…ちょっと、ドキッとしてもたから…」と伺うように小瀧を見れば、小瀧は気まずそうな顔をして俺との距離を少しだけ離した。
未だに、こうして小瀧は無意識に当時の、つまり恋人だった時の距離感になることがある。
一種の癖みたいなものだと思うけど、俺は一々ときめいてしまって、その度に心臓がうるさくなる。
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作者名：ゆうま | 作成日時：2023年5月1日 18時
