・ ページ39
『謝ること、ちゃうやん、』
どうにか絞り出せた言葉は、そんな本音だけ。
しげはきっと、一人でずっと苦しかったと思う。
まだまだこの世界じゃ同性愛はマイノリティで、世間にはそれが受け入れられない人も何万といて、その中で隠し通すのだけだってきっと苦しいというのに。
なのにしげは、それに加えて男ばかりに囲まれていて、きっとその中には、しげの恋愛対象となる人だっていたと思う。
それでもしげは、ずっと一緒に活動してた俺でさえ気が付かないほど隠し通していた。
こんなことがなければ、きっと俺だってずっと知ることは出来なかっただろう。
そこまでして隠し通してきたそこに土足でズカズカと踏み込んだのは俺で、しげが謝る理由なんてひとつもない。
謝らなければいけないのは、俺だけだ。
「…おれがっ…、おれが、何言うてるか、分かってる、？」
『分かってる』
「おれは、男が好きって、」
『分かってるよ。理解したから、デリカシーなかったなって反省してるし、しげが謝ることちゃうなって思うし、むしろ感謝してる』
『…そんなに大事なこと、教えてくれてありがとう、』としげを抱きしめれば、耐えきれなくなったようにしげは嗚咽を漏らしはじめた。
でも、それでいい。
これは傷ついた涙じゃなくて、きっと、安心の涙だから。
今まで溜めていた全てを、今俺の胸に全て流し込んでしまえばいい。
そんな大それた存在に、俺がなれるのかは分からないけれど。
「おれ、ずっと苦しかったっ、。みんなにうそついてノンケみたいなふりして、でもっ…、でもほんまは、男がすきでっ…」
『うん』
「だましてる、みたいやってっ…」
『ん、』
「でもっ、でもこたきが、こうやって受け入れてくれて、すくわれた。言うてよかったって、おもえた、」
「おれも、ありがとうっ、」ってこちらを向いたしげは、今度は目から涙を溢れさせて、眉根に皺も寄せず、穏やかなかわいい顔で笑った。
「まだやっぱり、小瀧以外にいう勇気はあらへんけど、でもちょっとだけ、このまんまの俺でもええんやなって思えた、」
『うん』
「ありがとう、小瀧。ほんまにありがとう」
「小瀧のこと信用してへんわけちゃうかってん。きらいってわけでもない。…でも、こわかった」そう続けたしげの表情は本当にすっきりしていて、触れられたくない部分にズカズカと踏み込んだのは反省しつつも、これで良かったのかもしれないと思う部分もある。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 153人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆうま | 作成日時：2023年5月1日 18時
