短編集 (ページ35)

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紫「…望、」

何が出来るわけでもなくしばらく呆然とその場に突っ立っていると、そんな俺を見ていられなかったのか、濵ちゃんが寄ってきて俺の肩を優しくぽんぽんと叩く。

紫「大丈夫や、しげちゃんもちょっとカッとなっちゃっただけやって、な？」

『…ごめん、俺のせいで』

紫「気にすんなって、望。多分撮影までには切り替えてくるよ、案外大人やからな、あいつも」

マイナスイオンが出てるなんて形容されるあの笑顔で、肩にあった手を頭に移動させ、わしゃわしゃとセット前の俺の髪を撫ぜる。

その姿はお兄ちゃんさながらで、その優しさに触れて、涙が滲んだ。

より俺が、惨めだった。

黄「…よし。とりあえず準備しよ。あいつが仕事すっぽかすとかありえんし」

橙「…そやな。まずは仕事、話はその後な」

厳しく、それでいて少しの優しさもある淳太と照史の目が、俺をどこか安心させる。

脳内に蔓延する罪悪感を振り払うようにパチンと1回頬を叩いて気合を入れると、そんな様子を見て濵ちゃんが笑っていた。

いつの間にやら楽屋からは流星と神ちゃんがいなくなっていたから、しげはその二人がどうにかしてくれるのだろう。

メンバーのフォローもあってか心に余裕ができて、撮影が終わったらきちんと話し合いをして謝ろう、なんて決心ができるほどには、俺は落ち着きを取り戻せていた。

結局しげが帰って来たのは撮影が始まる直前で、メイクも着替えも済ませた状態で撮影現場に現れた。

楽屋には顔も出したくないらしい。

けれどしげは、やっぱり頼れる真面目な俺たちのセンター。

撮影が始まればさっきの事なんかなかったかのように平然としていて、まるで役者スイッチでも入ったかのように態度が一変した。

すごいなぁ、ほんまに。

ス「はい、オッケーです！以上で本日の撮影は終了になります、お疲れ様でしたー！」

スタッフさんの元気な声が現場に響いて、一目散に動き出したせっかちな照史が俺たちを見やるなり楽屋の方向へと目配せをした。

来い、と目が訴えている。

大人しく全員が楽屋に足を向けて歩き出した。