短編集 (ページ28)

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『…泣いた、？』

「ちょっと、」

『まぁせやんな。嗚咽は聞こえてたし、』

玄関に入るなり、小瀧は靴を脱ぐよりも先に俺を心配そうに見つめた。

眉を下げたその顔のまますっと俺の頬を撫でて、『…とりあえず上がるな、？』なんて優しく、どこか甘い声で言う。

『おじゃまします、』

「…小瀧、」

『ん？』

「ただいまでええよ、」

『…うん。ただいま、しげ』

足を踏み入れてそんな会話をすると、小瀧は俺を優しく抱きしめた。

トクトクという心地のいい心音が、俺の乱れた心を落ち着かせていく。

『…なぁしげ』

「ん…？」

『…一緒に、住もっか』

「え、？」

『こうやって行き来するんやなくて、正式に、一緒に住も…？』

『もうしげが知らんとこで1人で苦しんでんの、俺耐えられへん、』

俺の身体を少し離して、目を合わせながらそう言って情けなく無理に笑って見せた小瀧の目からは、1粒涙がこぼれ落ちた。

「なんでお前が泣くん、」なんて俺もつられて涙をこぼせば、『…好きやねんもん、』と小瀧は苦しそうに呟いた。

「は…？好き…、って、な、にが…、」

『…しげが、好きやねん。ごめんな、』

零れこそしないものの、もうすぐにでも決壊しそうなほどの涙を目に溜め、またキツく俺を抱きしめた小瀧は、耳元でぐすっと鼻の音を鳴らした。

『ほんまにごめん、』なんてまた苦しそうに謝るから、「なんで謝んの、」って、優しく抱きしめ返した。