短編集 (ページ19)

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ゆめうつつページ19

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演技の仕事は大好きだ。

それがどれだけ長丁場であっても、それがどれだけ悪役であっても、俺はこの仕事を誇りに思う。

数いる芸能人の中で、たった一人、役者でもないアイドルの俺が、演技をかわれてキャスティングされる。

それがどんなに、嬉しいことか。

けれど同時に、計り知れないほどの疲労も溜まる。

メンバーなら受け入れてくれる "俺" をそこでは打ち消して、取り繕って猫を被って人と接する。

"俺" ではない誰かを、撮影中も撮影後も、常に "俺" に取り込む。

それは存外、精神身体共に負荷のかかることだった。

それが仕事だと分かっていても、俺が好き好んで選んだ道だとしても、"俺" でいられないストレスは大きくて、ドラマの撮影期間になると隠せないほどの疲弊が俺を襲った。

『しげこれさ、…おーい？』

「…」

『しげちゃーん？大丈夫？』

「えっ？」

『眠い？ちょっと寝る？』

弊害は疲れだけには留まらなくて、悪夢を見ることが増える。

過去の自分が上げに上げまくったハードルを、"演技派ジャニーズ" というハードルを越えられるのか、世間や監督の期待に答えられているのか、そんな不安に押しつぶされそうな夜は眠れない。

そして寝つけたとしても、悪夢に魘されて起きる。

それを期間中ずっと繰り返すのだから、俺の寝不足は解消されなくて、ぼーっとしてしまうことや急な眠気に襲われることが増える。

けれどそれも、一人でいる時か、こうしてメンバーがいる時かの2択だけ。

いくら疲れていても、寝不足であっても、結局 "俺" ではない誰かである以上、撮影現場ではそれさえも表に出てこなかった。

「ごめん、日差しあったかいから眠なってきてもうた」

『そやなぁ、今日天気ええもんな。まだ時間あるし寝とき？時間なったら起こしたるわ』

「ありがとう」

『うん』

小瀧の隣は、特段安心する。

1人の時や他のメンバーといる時は、眠気は出てくるし眠りにもつけるものの、浅い眠りになってすぐに目が覚めてしまう。

けれどそこに小瀧がいると、深い眠りにつけるし悪夢も見ないし、気持ちよく目覚めることができる。

それに気がついたのがいつだったか、そんなことはもう分からない。

ただ過去の記憶を遡ってみたら、俺が質のいい睡眠を取れた時は必ず隣に小瀧がいて、その時初めて、小瀧の隣が安心するのだということを知った。

理由までは、俺も知らない。