短編集 (ページ1)

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俺の幸せ、彼の幸せページ1

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あの日、俺が彼に別れを告げた日。

別に泣いて欲しかったわけじゃないし、悲しんでくれるなんてこともはなから思っちゃいなかった。

けれどそれでも、涙ひとつ見せず、むしろいつも通りの笑顔で「せやなぁ。しょーみお互いにとって足枷やし、別れた方がええよな」なんてけろっと言ったしげに、俺は心底絶望した。

多分ずっと、俺の事なんて好きじゃなかったんだと思う。

伝えない方がいいなんてことは分かっていながら、それでも耐えきれずに吐露された俺の気持ちを、優しく気使いなしげは拒否をすることが出来なくて。

俺が告白をしたあの瞬間、断られた俺の気持ち、断った時の気まずさ、それにより変わる俺たちの関係性、色々なものがしげを悩ませたはずだ。

その結果どうにも受け入れるしかなくなったその気持ちは、きっとしげにとっては想像以上に重かった。

しかも俺たちはアイドルで、メンバー同士で、男同士で、それは一生変わらずに着いてくるもの。

それを全て加味した時、しげの中に残るのは"足枷"の2文字で、それは存外しげを悩ませた。

結局、交際していたあの期間で、俺はしげを幸せにすることもできず、むしろ与えたのは一方的な重い愛と悩みだけ。

あの時のデートも、手を繋いだことも、ハグをしたことも、キスをしたことも。

その全てが、しげにとっては足枷で、悩みで、しあわせなんてものとは程遠かった。

俺の幸せだったはずのしげとの思い出は、その事実によってトラウマへと変化した。

「小瀧ー。次俺とインタビューやって」

『はーい』

「行こ」

あれからもう、1年ちょっとが経過した。

別れたその次の日からも、俺たちの表上の関係には変化もなく、誰にも迷惑や心配をかけることなくただのメンバーへと戻った。

今となっては気まずさも特になく、あれは過去のこと、いや、むしろあれは別のしげだったなんて思うようにしている。