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×劇場スタッフ
社会人になるとどんな事情があろうと休めないタイミングがある。私にとっては今日がそのタイミングで、低気圧による偏頭痛、熱、貧血という最悪のコンディションで出勤中だ。
次の出番のコントで使われる小道具を舞台袖へと運んでいると
「Aちゃん!次出るん俺らやで!」
と肩を叩かれた。
『次見取り図さんでしたっけ?!すみません!じゃあこれいらないやつですね』
「さっきもなんかコードで転んどったし今日あかん日か??笑」
『ほんまにやばいかもしれないです!笑』
「一緒に運ぶわ!こっちでいい?」
小道具を元に戻しながら盛山さんは気さくに話しかけてくれるのだが、普通の人よりやや大きい声が少し頭に響く。いつもなら嬉しいのになと思っていたところに、眉間に皺を寄せた彼がやってくるのが見えた。
「モリシ声もうちょい下げて」
「え?」
「A雨の日偏頭痛あるから声響くんよ」
「えーそうなん!!言ってくれたら良かったのに!」
『全然大丈夫ですよ!手伝ってもらえて助かりました!!』
「ほんまごめんな」
盛山さんがしゅんとめちゃくちゃ申し訳なさそうにしているのを見て私も胸が痛んだ。
「A1回こっち来て」
『どうしたんですか??』
「何度?」
『え?』
「熱あるやろ。測っとらんの?」
『…えっと』
将企くんの手が私の額に触れる。
「ほら熱出とるって。」
『大丈夫だよ』
「あんま無理せんときや、今日これで仕事終わり?」
『うん』
「帰り待っとってな。一緒に帰るから」
出番が来たらしく、彼は頭を撫でた後、舞台袖へとスタスタと歩いていった。私あまり顔に出ないタイプなのになと思いながらもあの一瞬で体調不良に気付いてくれたことが少し嬉しかった。
無事に公演が終わり、片付けに入る。倉庫に物を運んでいたのだが、本格的に体調が悪化してきていて目の前がチカチカし始める。
本気でやばいかも、と咄嗟に私はしゃがみ込んだ。落ち着くまでこうしていようとうずくまっていると、A、と彼が私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「A聞こえる??」
『…ん、』
「だいぶ熱が上がっとるな」
「ちょっと落ち着いたら向こう移動しよ。」
貧血がマシになってきて彼の袖を掴む。
「落ち着いた?」
『うん』
「立てそう?」
『ん』
大丈夫だと思ったものの、予想以上に体調が思わしくないようでふらつく私を支えてくれた。
「あぶな」
『…ごめん』
「そこの部屋空いとるから行こう」
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作者名:ゆい | 作成日時:2024年3月19日 0時