劣等少女の病名【2】 (ページ17)

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63.草壁と雲雀の話ページ17

sideなし

応接室には雲雀と草壁だけ。三峰は祖母の通院に付き添うらしく今日は欠席だ。静かなのは変わらないが、雲雀の機嫌だけはどうにもならない。外から聞こえる野球部の掛け声に耳をすませつつ、草壁は作業に集中する。
雲雀の機嫌を損ねないように。

｢ねぇ、副委員長｣

その声に草壁は至って普通の表情で返事を返した。内心焦っているだろうが、顔に出さないあたり流石だと言える。これが三峰なら声が裏返っているところが容易に想像出来た。まぁ、三峰が雲雀に何かされることはほぼ無いのだが。

雲雀は三峰がいないと容赦ない。それを草壁は重々承知しているので、雲雀から発せられる言葉を一言一句逃すまいとした。間違えても聞き逃すなんてしないように。

｢君から見て、三峰Aはどう見える？｣

雲雀は書類をペラッとめくりながらそう聞いた。草壁の表情が固まる。際どい。非常に際どい質問だった。草壁は、雲雀が三峰のことを少なからず好意的に思っていることを知っている。この質問が草壁の真意を知るためのものなのか、単純に三峰の仕事ぶりに関する質問なのか。

……前者は地雷だ。

｢非常に優秀だと思います。飲み込みも早く、本人は実力行使が苦手だと言っていますが、委員の中には彼女を尊敬している者も多いです｣

｢へぇ、尊敬。それは初めて聞いたよ。それで？｣

それで、だと！？
草壁の心境はこれに限った。それで、とは、つまり続きを求めているのだ。しかし草壁はこれ以上言うつもりはなかった。寧ろ、この先何を話せば正解なのか判断しかねる。黙った草壁に、雲雀は更に質問を投げつけた。

｢良いか悪いかで言えばどっちか、答えなよ｣

良いか悪いか。ストレートな言い回しを避けているが、好きか嫌いかということなんだろう。どうやら最初の質問の意図はやはり、草壁の三峰に対する真意を探るためのものだったようだ。悪い、とは言えない。草壁は覚悟を決めた。

｢良いと、思います｣

｢そう。なら、Aには書記のポジションを与えようか｣

｢……はい？｣

思わず零れた声にギッと睨まれる。でもそれどころではない。草壁は困惑した。今までの話は恋愛的なものではなかったのか、と。まさか真面目に仕事の話だとは思っていなかった。

｢い、委員長は三峰のことが好きなんですよね？｣

｢は？冗談言ってないで仕事しなよ｣

冗談だと受け取られ仕事に戻る雲雀に呆然とする。露骨な態度から自覚ありだと思っていた草壁は、静かに天を仰ぎ頭を抱えた。