2 ページ5
神聖な雰囲気のさっきの場所は、清潔で綺麗な印象があったのに。
扉が開いた時に俺が異臭を感じ取ったのは、ただその世界の空気に、元の世界と異なる生態系が織りなす物質や空気感に、鼻が慣れていないだけかと思っていた。しかし、この治安が悪そうな街の状態を見れば、そういう空気感よりも、日本と違いあまり衛生的でない事が異臭の要因なのかもしれない。
「ハナキがあそこに居たのも、この汚さとか空気の悪さなのか？」
鼻が曲がりそうだとか、臭い、という訳では無いが、空気のにおいに忌避感が有り、少し顔を顰めてしまう。足元の石畳を見れば、幾つものジャンクフードか何かの入れ物だったらしい紙の容器が、踏まれて土塗れでグシャグシャになり、通りの縁を飾っていた。
「……それも、あるけど」
ハナキはゴミが散乱する様子や異臭には慣れているらしく顔は顰めていなかったが、なんだか表情が暗い。
と、
「おいオマエ、この俺様から逃げられると思ってんのか！」
「っ？！」
大きな罵声に思わず身が竦んだ。横を見るとハナキは苦しそうな表情で長く尖った耳を押さえている。こんな白昼堂々、おまけに外で大声で罵声を吐くなんて何事だ？
次いで、パン、と軽く何かが弾ける音が聞こえた。
「なんだ？」
今のは……銃声か？本物の銃声なんて日本では全く聞いたことはなかったが、そんな気がした。
「ナナセ！待って！」
ハナキの静止も聞かずに、俺は音の出処に向かう。
×
「ヒヒヒ……漸く大人しくなったなァ」
舌舐めずりをする蜥蜴のような男が、女性を壁際に追い詰めていた。男の手には銃が握られており、女性は血を流している。銃口からは薄く煙が昇り、男が今し方その道具を使った事が見て取れる。次いで女性の方を見れば、青味を帯びた黒髪を乱し、苦しそうに息を荒く吐いていた。
女性の腕は髪と同じ色合いの毛で覆われていて、猫のような印象を持った。銀の目が一瞬、此方を見たが直ぐに蜥蜴のような男の方に向く。
「あん？オマエ等何見てんだ。見せもんじゃねェぞ」
此方に気付いた男は、深い緑の目を細め睨み付ける。
「何……してんだ」
彼女から流れる血はかなりの量があり、見れば顔色が悪い。このままだと彼女は死んでしまうのではないか。
「なんだオマエ、『孵りたて』かよ」
そう呟くが、「マ、どうでもいいか」と男は此方に構わず銃を彼女に向ける。
「オマエが俺等にした事を詫びて……死んで貰わねェとな」
その瞬間、身体が勝手に動いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鬼灯(プロフ) - 先に言っておきます、主人公にムカつくのならば、私の考えた設定に見事ハマっております。この主人公、(あるいは数名の登場人物)には、少しイラつくような、不愉快になりそうな要素をいくつか混ぜ込んでおります。主人公の察しが鈍いのもそのせい。(もはや言い訳) (2020年11月28日 12時) (
レス) id: 0ae018eaaf (このIDを非表示/違反報告)
鬼灯(プロフ) - 蟻さん» コメントありがとうございます！頑張って完成させたいと思います。 (2020年9月27日 0時) (レス) id: 0ae018eaaf (このIDを非表示/違反報告)
蟻 - 続きが気になります！ 時間がある時で大丈夫ですので無理のない更新頑張ってください (2020年9月26日 17時) (レス) id: 25e4f6e788 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
