プルサティラ (ページ49)

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もう一度だけ話したい。

ふたりきりで、ちゃんと話したいんだ。

説得して残ってもらって、Aがご飯を作っている姿を眺める。

野菜を切る時にキラッと光った右手の指輪。

前まであんなのしてなかったあの位置、あの見た目。

…婚約指輪、だよな。

もう遅いんだ、何もかも。

Aと結婚する人は、この姿をずっと見れるわけで。

元太にそれ取ってー！なんて言ってるけど、そんなお願いも結婚する人は聞く事が出来て

ずっとAと一緒に暮らして、ずっと…

あー、俺女々しすぎるだろ。

宮近「元太、Aとコンビニ行ってくるわ」

もうダメなことはわかってるから、ならせめて最後にふたりきりで話させてよ。

車を運転してる時、Aは外を見たり、チラチラ俺の方を見てきたり。

通っていた幼稚園に着いて、なんで？って顔をしたA。

車に乗ってる時はお互い前方に向かって座っているから、目が合わなくても違和感がなくて楽。

手探りでAの手から指輪を外して、街灯に照らす。

…こんなモノに縛られているなら、今すぐにでも捨ててやりたい。

でもAが泣きじゃくって必死に探す姿を想像したら、そんなこと出来ないし。

そもそもモノに縛られている訳じゃなくて、本気でアイツが好きで結婚するなら、俺はそんな酷いこと流石にできないし。

だけどせめて俺といる間だけ、この指輪は外してほしくてそのまま持ち歩く。

小学校の周りを車で走らせて、その奥に見えてきたいつも遊んでいた公園。

話しているAは、幼い頃の可愛い面影を残したまま綺麗になった。

俺はいつ道を間違えて、ずっと隣にいたはずのAを手放したんだろう。

そんなに嫉妬してるなら、俺のこと欲しがってよ。

俺のこと必要だって、俺じゃなきゃダメだって言って。

アイツとの結婚が嫌だって、俺に泣きついて来てよ。

そう言えないのは、やっぱり俺が素直になれないから。

指輪は返したくないけど返すしかなくて、手のひらにのせて差し出した。

 『…そのまま私の左手の薬指に、つけてほしい』  

好きな人が俺とは違うやつと結婚を約束した指輪を左手の薬指に付けるなんてさ、何が嬉しくてそんなのやると思ってんの？

俺がもっといいの買ってあげるからさ

俺がもっと楽しい家庭を築くからさ

だから、婚約なんて破棄してよ。

そう言いたいのに、有無を言わせない顔で最後のお願いをしてくる。