人質 ページ4
教室に向かって廊下を歩いていると、大量の崩れた段ボールと柊先生が立っていた。
近くに台車があり、倒れたのだと推測する。
「柊せんせ、大丈夫、ですか？」
こんな数の段ボールを積むのは大変そうなので、手伝おうと声をかけた。
「ああ、大丈夫だ。先に言ってくれ」
いつもより冷たい、人を遠ざける声に少し驚く。
私は美術部員ではないものの、良く美術室に出入りしており、先生ともそれなりに喋る仲だった。
なにかあったのだろうか、
「分かりました」
でもなんだかこれ以上踏み込んではいけない気がして、おとなしく教室に向かうことにした。
教室に入ると、何人かの視線を感じた。
まあそんなことはいいとして、どうやら後ろのドアが開かないらしい。
後方の扉に目を向けながら、一番後ろの自分の席につく。今日は色々と問題が起きるな...、と考えながら本を開いた。
太宰治の「走れメロス」。処刑されるために町に戻らなければならないメロスと、人質になってしまったセリヌンティウスの物語。
教科書と文庫本ではまた違う感じで面白い。
しばらくすると、先生が部屋に入ってきた。
「先生、ドアが開かないらしいんですが」
と先生に報告する茅野さんを横目に本を閉じる。
そうすると彼は
「うん、じゃまず席に着こうか」
とクラス中に促した。
「あれ、甲斐くん達は？」
先生が尋ねると
その時、前のドアから甲斐くんら不良？グループが入ってきた。
「うえ〜い、間に合った間に合った」
と言ったのは私の右隣の...いわくら？くんだ。
そして甲斐くん、えっと誰か...と続く。
「間に合ってない、遅刻だよ」
と先生が注意すると、
「ぶっきー、少しくらい大目に見ろって！」
と誰か...さんが先生を後ろから蹴った。
それを見て数人から歓声が上がった。
少し心が痛んだ。痛そう。
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作者名：はるさめ | 作成日時：2021年11月26日 0時
