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354話 ページ37

力強い言葉にAが目を見開く。絡みついていた糸が刃の一振りでばっさりと断ち切られたように、体が自由になる。その瞳に、明るい光が差して影が晴れていく。


 ────あぁ。


 ふと、心の奥に詰まっていた何かが取れた気がした。刹那、抑え込まれていた何かが、奔流のごとく溢れ出した。



「ザック……ザック………!」



 感情のまま、目の前の人の名を呼んで。ただAは、ザックに縋り付いた。



「ザック、わたし……わたしは……!」


「おう」


「わたしは、本当は……本当はずっとふたりと一緒にいたかった!殺したくなんて、なかったの……!」


「んなこと、わかってるに決まってんだろ」



 ザックが困ったように笑った。その顔があまりにも優しくて、流し方を忘れていた涙が流れ出した。頬を伝う暖かな感触にまた涙を流しながら、Aは懸命に声を紡いだ。



「……レイ、ザック」



 顔を上げて。



「わたし……わたし、ここから、でたい。レイと、ザックと一緒に、ここからでたい……!」



 前を向いて。


 そんなAの願いに。ザックはやはり、真っ直ぐな言葉で応える。



「あぁ、俺が、お前をここから出してやる。お前が足取られてる所から、俺が引きずり出してやる!だから、お前も───お前も、誓え」



 顔を上げて。



「俺と、レイに誓え。俺たちと一緒に、ここからでると……誓え!」



 前を向いて。



「────うん! ……レイと、ザックに……誓う!」



 己を縛る過去を断ち切って、新たな誓いをたてよう。


 世界が、少し明るくなったような気がした。あまりのまぶしさに、目が眩むようだった。




「……よかった」


 Aは包帯が巻かれた両手で顔をおおった。


「……わたし、大切な人を殺せない『人間』でよかった」



 Aは泣き続けた。何年もの間凍りついていた分の涙の全てを流し切ろうとしているかのように。



(嬉しくて泣いたのなんか、はじめてだ────)



 下手くそな泣き方でしゃくり上げるAを、ザックは困ったような顔で見ていた。

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リア(プロフ) - あやさん» コメントありがとうございます!二度入ってしまったことはお気になさらず!一気読みしてくださったと聞いて嬉しい気持ちでいっぱいです。かなりゆっくりの更新となってしまっておりますが、今後もぜひ読んでくださると嬉しいです! (2021年2月15日 22時) (レス) id: d0c52e385f (このIDを非表示/違反報告)
あや - すみません、二回も同じ文が入ってしまいました(汗) (2021年2月4日 16時) (レス) id: e816ef2773 (このIDを非表示/違反報告)
あや - 思わず一気読みしてしまうほど面白いです! 次の展開にドキドキです! 更新頑張ってください!  楽しみに待ってます! (2021年2月4日 16時) (レス) id: e816ef2773 (このIDを非表示/違反報告)
あや - 思わず一気読みしてしまうほど面白いです! 次の展開にドキドキです! 更新頑張ってください!  楽しみに待ってます! (2021年2月4日 16時) (レス) id: e816ef2773 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - 黒白の猫さん» コメントありがとうございます!まさか私の書いた文章でそんな風になって貰えるとは……!?(?)ここからの展開もお楽しみいただけると幸いです! (2020年10月13日 19時) (レス) id: d0c52e385f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:リア | 作成日時:2020年7月13日 20時

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