347話 ページ30
＊
──誰かの笑い声が聞こえた。
嘲笑だとか、哄笑だとか、そんなものではなくて。
ただ、幸せそうに笑っている声が。
この幸せがいつまでも続くのだと信じきっている、そんな無邪気な笑い声が。
(────)
一体誰が笑っているのだろうとそっと目を開けた。
父親と、母親と、小さな女の子が少し離れたところを歩いていた。3人組の親子だった。
あぁ、と思った。
あれは、あの女の子はかつての自分だ。
ずっとずっと幼かった頃、まだ優しかった父親と、そんな父親と仲の良かった母親の間に挟まれて、手を繋いで。笑っている。楽しげに、笑っている。
そんな姿を見て、口元が緩んでいた。幸せだったいつかを、思い出した。
そして、唇をかみ締めた。自分が失って、自分で壊して、二度と戻らない幸せな日々を想った。
(あんな風に生きられたら、よかった)
そう思った自分の姿を見てみると、全身は返り血で赤く染まって。その手の中にはナイフと銃が握られていた。
親子が行く先には、家族で住んでいた家がある。
自分の背後には、先の見えぬ闇がある。
いつかの日、神父に連れられて地下へおりた時のことを思い出す。視界は閉ざされて何も見えなかった。そんな中、ゆっくり、ゆっくりと長い階段を下り、いくつものエレベーターを乗り継いでフロアにたどり着いた。
それ以来、自分のフロアを出たことは無かった。世界で唯一自分を許してくれる場所。血にまみれた箱庭。
過去から逃げて、罪から目を背けて、何もかもを諦めて閉じこもって、本当の自分すらわからなくなってしまった。
それに比べて、今視線の先で飛び跳ねる幼い自分は自分の本当の気持ちをきっと知っている。ただ両親を愛し、愛され、これから先の不幸など知りもしないで飛び跳ねている。
そんな姿を愚かだ、と笑うことはない。ただうらやましかった。
道を踏み外し、もう元には戻れなくなったと分かっていても、家に帰っていく親子が羨ましかった。
その場にナイフと銃を置いて、自分もあの家に帰りたい。そう思った。
人を殺したい、だとか、全部壊してしまいたい、だとか。本当はそうではなくて。
きっと、自分の願いはただ──
(────普通に生きられたら、よかった)
＊
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リア(プロフ) - あやさん» コメントありがとうございます！二度入ってしまったことはお気になさらず！一気読みしてくださったと聞いて嬉しい気持ちでいっぱいです。かなりゆっくりの更新となってしまっておりますが、今後もぜひ読んでくださると嬉しいです！ (2021年2月15日 22時) (
レス) id: d0c52e385f (このIDを非表示/違反報告)
あや - すみません、二回も同じ文が入ってしまいました（汗） (2021年2月4日 16時) (レス) id: e816ef2773 (このIDを非表示/違反報告)
あや - 思わず一気読みしてしまうほど面白いです！ 次の展開にドキドキです！ 更新頑張ってください！ 楽しみに待ってます！ (2021年2月4日 16時) (レス) id: e816ef2773 (このIDを非表示/違反報告)
あや - 思わず一気読みしてしまうほど面白いです！ 次の展開にドキドキです！ 更新頑張ってください！ 楽しみに待ってます！ (2021年2月4日 16時) (レス) id: e816ef2773 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - 黒白の猫さん» コメントありがとうございます！まさか私の書いた文章でそんな風になって貰えるとは……！？(？)ここからの展開もお楽しみいただけると幸いです！ (2020年10月13日 19時) (レス) id: d0c52e385f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：リア | 作成日時：2020年7月13日 20時
