333話 ページ16
「ザック!」
レイがAとザックを追いかけてきた。Aを見失って立ち尽くすザックを発見したあとに、レイは廊下から繋がるいくつものドアを眺めて眉を下げる。
「ちっ……あいつ、どこ行きやがった……?」
頭をかくザックをぼんやりと眺めつつ、レイは先程の激しい戦いを思い返していた。目で追いきれない俊敏な動き。見ているだけで目が回ってしまいそうだった。そして、その中でも笑んでいたAの表情が脳に貼り付いて消えない。
でも、あの笑みは違う。あれは楽しいのでも、嬉しいのでもない。ただ苦しさを押し込めるために浮かべたもので、無理に口角を吊り上げている。
Aを追いかけよう。もう一度この広いフロアを巡って、今度こそはその手を取るために。
「ザック」
「あァ」
ザックとレイ、2人とも気持ちは一致している。ただ短く声を交わして、まずはAが走り去ったその方向へと足を進めた。
*
それ以降、Aの足取りは再び途絶えた。ザックとレイはフロアを延々と回り続けたがどこをまわっても同じような景色が続いて、何度も同じ場所を回っているかのような気分になる。
他のフロアもかなり独特なものだったが、このフロアにはまた別の異質さが漂っている。今までのフロアはその階の殺人鬼たちを象徴するような仕掛けがあったり、殺人鬼たちのこだわりのようなものが散りばめられていた。しかし、このフロアにはそれがない。部屋の形や廊下の長さは異なっているが、内装がほぼ同じなせいで代わり映えがせず、まるでフロアの構造などどうでもよかったかのように同じ景色ばかりが並んでいる。
もしかすると、本当にどうでもよかったのかもしれない。人間が嫌いだと、殺さなければならないと言い放ったAに殺しの美学などない。
殺せれば、いい。
それほどまでに人間を嫌うようになる何かが過去にあったのだろう。
(私が今まで見ていたAと、ここに来てから見たA……どちらが、本当のA?)
無個性なフロアを進みながら、考える。レイは思考を巡らせながら、ただザックのあとをついていっていた。故に、ドアを開け放ってその先に踏み込んだザックが急に立ち止まると、レイはザックの背中に顔面を突っ込むことになった。
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リア(プロフ) - あやさん» コメントありがとうございます!二度入ってしまったことはお気になさらず!一気読みしてくださったと聞いて嬉しい気持ちでいっぱいです。かなりゆっくりの更新となってしまっておりますが、今後もぜひ読んでくださると嬉しいです! (2021年2月15日 22時) (レス) id: d0c52e385f (このIDを非表示/違反報告)
あや - すみません、二回も同じ文が入ってしまいました(汗) (2021年2月4日 16時) (レス) id: e816ef2773 (このIDを非表示/違反報告)
あや - 思わず一気読みしてしまうほど面白いです! 次の展開にドキドキです! 更新頑張ってください! 楽しみに待ってます! (2021年2月4日 16時) (レス) id: e816ef2773 (このIDを非表示/違反報告)
あや - 思わず一気読みしてしまうほど面白いです! 次の展開にドキドキです! 更新頑張ってください! 楽しみに待ってます! (2021年2月4日 16時) (レス) id: e816ef2773 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - 黒白の猫さん» コメントありがとうございます!まさか私の書いた文章でそんな風になって貰えるとは……!?(?)ここからの展開もお楽しみいただけると幸いです! (2020年10月13日 19時) (レス) id: d0c52e385f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リア | 作成日時:2020年7月13日 20時