449話 ページ36
───グレイ神父は微かに目を見開き。
そして困ったように眉をひそめて、口元に笑みを浮かべる。
「……そうか。お前の口から、そのような言葉が出てくるとはな」
グレイ神父はフッ、と息を漏らして笑うと、まっすぐに見上げるAの瞳を同じように見つめ返す。
Aは思う、いつか私を同じような目で見ていた人がいたな、と。それが母親のそれと同じであることにやがて気がついた。
「ようやく、私も───お前という天使を、手放す決心ができたよ」
その言葉に、Aは少し驚いて目を瞬いた。一瞬の瞬きの間に強面の表情は一変していた、少なくともAにはそう見えた。
穏やかにAを見つめる目は、やはり。Aの記憶の中で痛み続ける母親の目ととても似ていた。
そんな眼差しを向けられて、Aもまた自然と微笑んでいた。この温もりがあれば、きっとこの先も歩いていける、そう思った。
優しい笑みが、かつての日々を思い出させて、胸のどこかが痛んだけれど、その痛みはAを引き止めるものにはなり得ない。
そばに居たいと願う人たちがいる。今はその人たちの元へ、ただいきたい。自分の弱さを盾にして、心に嘘をつくのはもうやめだ。
いこう。そして見届けよう、彼らの誓いを。
「いってきます」
グレイ神父に向き直り、もう一度まっすぐに瞳を見つめて、決意のままに口にした。
血の繋がらぬ『父親』と、もう二度と会うこと叶わずとも、それでも自分はゆくのだと、そうハッキリと告げるつもりで。
Aの決意にグレイ神父はいつものように頷いた。何も言わずにただ深く、深く、頷いた。
それは最後の一押しとなった。Aは今度こそグレイ神父に背を向けて、来た道を戻り始める。
また背中を押されてしまったなと、そんなことを思いながら、Aはひび割れた空気が漂う廊下を駆け戻っていった。
今のAにとっては最も大切だと言える人たちが対峙しているであろう、その場所へ。
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リア(プロフ) - ましゅまろぉさん» はじめまして!コメントありがとうございます。検索では結構埋もれてしまっているはずなのに、見つけてくださって光栄です。応援もいただけてとっても励みになります!ご期待に応えられるようがんばっていきますので、これからもよろしくお願いします!( ¨̮ ) (9月29日 1時) (レス) id: 29a124a552 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろぉ(プロフ) - 初めまして。コメント失礼しますm(*_ _)mこちらの作品を最近見つけて面白くて思わず一気見していました。これから更新お待ちしています。応援してますꉂ📣 (9月21日 22時) (レス) @page38 id: f13e73b476 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ミミックさん» コメントありがとうございます!長らくお待たせしました。これほど更新が遅れてしまったのに読みに来てもらい、コメントまで!本当に嬉しいです。応援いただきありがとうございます。できるだけ早く続きをだせるよう頑張るので、また読みに来てくれると嬉しいです! (9月13日 12時) (レス) id: 7341473d1c (このIDを非表示/違反報告)
ミミック(プロフ) - 更新再開ありがとうございます。リアさんのペースで頑張ってください。応援してます (9月9日 9時) (レス) @page36 id: 552a25aaf1 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - @高橋_Teretaさん» コメントありがとうございました! そして大変お待たせしてしまい申し訳ありません。もしまだ更新を待ってくれていて、再び読みにきてくださるのであればそれほど嬉しいことは他にありません。完結までは必ず持っていきますので、良ければまたお願い致します。 (9月9日 3時) (レス) id: 29a124a552 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リア | 作成日時:2022年8月30日 13時