448話 ページ35
Aの表情を見て、グレイ神父はフッと笑った。憂いははれたのだろうと判断したらしい。
「では、行きなさい。お前自身の誓いのために、今はやるべきことがあるだろう」
「……うん」
Aは静かにうなずいた。あのリビングで、今も二人は対峙しているのだろうか。その光景を想像しながら、Aはグレイ神父に背を向けようとした。
その手前で、動きを止めた。
違う。わたしが伝えたかったのは、こんなことじゃない。
本当に伝えたかったことをまだ伝えていない。
叱られるのが怖くて駄々をこねる子どものような、そんなことばかり口に出してしまったけれど、本当に伝えたかったのは。
Aは再び振り返る。背の高い姿を見上げて、まっすぐにその目を見つめた。
思えば。グレイ神父と過ごした日々の中で、このようにAがグレイ神父を見上げることはいくつだってあったけれど、Aが自身の想いを告げたことはついになかった。そこにあったのはただ、『神』と『天使』の関係であったのだろう。
しかし今は違う。Aは『人』に堕ちたのだ。なれば、『人』として伝えたいことがある。伝えなければならない想いがある。
「ねぇ、神父さま。わたし、あなたに出会えてよかった」
ただ率直な想いを口にする。今までは伝えたことがなかったけれど、それでも一時だって忘れたことがない想い。
「あの夜、あなたが助けてくれたからわたしは生きています。あなたがたくさんの温もりをくれたから、わたしは『人』になれたのです」
言葉や行動の節々に滲み出る優しさや、時に頭を撫でる大きな手の温もりは、いつだってAをあたたかく包み込んでいた。
「こんなこと言ったら失礼かもしれないけれど、あなたはわたしにとって、おとうさんでした」
わたしを『人』ならざるものへして。
そしてわたしを『人』にしてくれた。
「ありがとう」
あなたに感謝を。
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リア(プロフ) - ましゅまろぉさん» はじめまして!コメントありがとうございます。検索では結構埋もれてしまっているはずなのに、見つけてくださって光栄です。応援もいただけてとっても励みになります!ご期待に応えられるようがんばっていきますので、これからもよろしくお願いします!( ¨̮ ) (9月29日 1時) (レス) id: 29a124a552 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろぉ(プロフ) - 初めまして。コメント失礼しますm(*_ _)mこちらの作品を最近見つけて面白くて思わず一気見していました。これから更新お待ちしています。応援してますꉂ📣 (9月21日 22時) (レス) @page38 id: f13e73b476 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ミミックさん» コメントありがとうございます!長らくお待たせしました。これほど更新が遅れてしまったのに読みに来てもらい、コメントまで!本当に嬉しいです。応援いただきありがとうございます。できるだけ早く続きをだせるよう頑張るので、また読みに来てくれると嬉しいです! (9月13日 12時) (レス) id: 7341473d1c (このIDを非表示/違反報告)
ミミック(プロフ) - 更新再開ありがとうございます。リアさんのペースで頑張ってください。応援してます (9月9日 9時) (レス) @page36 id: 552a25aaf1 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - @高橋_Teretaさん» コメントありがとうございました! そして大変お待たせしてしまい申し訳ありません。もしまだ更新を待ってくれていて、再び読みにきてくださるのであればそれほど嬉しいことは他にありません。完結までは必ず持っていきますので、良ければまたお願い致します。 (9月9日 3時) (レス) id: 29a124a552 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リア | 作成日時:2022年8月30日 13時