【殺戮の天使】天使か、生贄か。《Ep.10》

442話 ページ29

「レイチェル……少し時間がかかりすぎだ。君らしくもない……まぁ、ザックは化け物だものね。Aも普通の生贄とは違うし、なかなか大変かな。でも大丈夫、この距離で頭をぶち抜けばさすがに死んじゃうよ。Aの次はザック、君の番だよ」


「この野郎……！！」


　ザックが大声で悪態をつくがその顔は引き攣ったまま、視線はAの眉間にあてられた銃口に釘付けになっている。
　ダニーの指が引き金を引くために静かに動き、Aの背筋を冷たい感覚が這った。


───死ぬ。


　心底楽しそうに、気味の悪い笑みを深めて、舌を出して、目を見開き。ダニーは高笑う。



「───アハハハッ！」



　高らかな、叫びにも近い笑い声がAの鼓膜を震わせる。他の何をもかき消してしまいそうな笑い声の中で、小さくカチャリ、という音がした。そして、同じくほんの小さな、レイの声が微かにAの耳に届く。



「……ごめんなさい──────先生」



　そう、言って。Aの背後で、銃声が炸裂した。


　パァン、という甲高い音に一瞬全ての音がかき消され、思わずAは目を瞑る。撃たれたのが、自分ではないことはすぐに分かった。またたきをした次の瞬間には、目の前で銃を構えていたダニーの口から血が吐き出されたから。


　何が起こったのかは、すぐには理解できなかった。ダニーは、激しく震える手から銃を取り落とし、口元から血を溢れさせながら後ずさる。
　思わず同じように後ずさったAの目の前で、ダニーは信じられない、といった顔でレイを凝視していた。


「……レイチェル……？」


　ダニーの視界の先にある姿を振り返って、Aは息をのんだ。銃を構えたレイ。その銃口が狙っているのは、ザックでもなく、そしてAでもなく、ダニーだった。

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